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「私も行くわ」
「だめ」
「なんでえな」
司令室で話しているのは裕子と彩だった。
「裕ちゃんはＪＥＰＴの要だから残らないとダメなの。
もし、今の軍が全滅しても裕ちゃんさえいればまだのぞみはある」
「いやや、そんなん…
嘘でも帰ってくるって言うてえや」
「…帰ってくるよ、裕ちゃん」
彩は乱暴に裕子を抱き締めた。
「ねえ、裕ちゃん、この前言ってたＤＮＡの話さ、出撃までに採取してもらうよ」
彩は裕子の髪をなでながら話す。
「…あやっぺ…」
「私は地球イチ幸せだよ…
仕事でもプライベートでも、こんな素敵な裕ちゃんがパートナーなんだから」
「アホ、かっこつけすぎや」
裕子は涙だらけの笑顔で彩を見つめた。
ひとみは自分の乗る戦闘機をじっと見つめていた。
「帰ってこれんのかな…」
そう言いながらひとみはふうっとため息をつく。
そのとき、瞳の心の中にある感情がはっきりと浮かび上がってきた。
「真希に会いたい…」
ひとみは本能の赴くままに医務室へと向かった。
「真希」
ドアをあけたひとみの目に入ったものは、
うつむいて涙を堪える真希の姿だった。
「……真希？」
「…何で…何で私が好きになる人はみんな
戦いに行っちゃう人ばっかりなんだろ…
もう、やだよ…
大切な人なくしたくない…」
ひとみに話し掛けてるのか、独り言なのか、
真希は涙を堪えて懸命に話す。
「真希…もしうちが無事帰って来れたらさ
子供作ろ」
「……え？」
「あ…いやだった？」
「いやじゃないよ、嬉しい…」
「よかった…」
「あ、でもね」
「ん？」
「もしもなんて言わずに
絶対帰ってきて欲しい」
「わかった」
「あともう一つ…」
「子供作るの今じゃダメ？」
「って、真希、まだ１７でしょ？」
「１７はもう作っていいんだよ？…だめ？」
ひとみは答えの代わりに真希を抱き寄せキスをした。
長いキスのあと、ひとみは真希の額に自分の額をくっつけた。
「彩さんに挨拶しに行かなきゃね、
何ていわれるんだろ、怖いな」
「大丈夫、私が文句言わせないから」
そして今一度、唇を重ねるのだった。
「なんなのこれ？」
翌日、研究室の保田博士は思わずそう叫んだ。
双方のＤＮＡ使用によるクローンベイビー受胎申込書を受け取る人が
長蛇の列を作っていたのだ。
同性間によるクローンベイビーは実用化したのはつい最近だった。
そのためのリスクもまだ未知数だった。
にもかかわらず、この日の長蛇の列。
保田圭は、自分なりの受胎被験者資格を
決めておいてよかったといまさらながらに思った。
「じゃあ、この申込書に書かれてる項目をよく読んで
記入してからもってきてくださいね」
申込書を取りにきたカップル達は、それを見て喧々諤々話をしている。
「あたしらはＯＫやな」
これは裕子と彩。
裕子はその場で申込書を書き、圭に渡す。
「はい、裕ちゃん、受付一号ね。
で、どうする？
代理母の子宮を借りることもできるけど」
「あー、自分のおなかで産むわ」
裕子は、隣りの彩の顔を見ながら答えた。
「やば、ウチら、４番満たしてない…」
これはひとみと真希。
「しちゃう？」
「へ？」
「だから〜。そういうこと、しちゃう？」
ひとみがふと顔を上げると、申し込みを済ませた彩達の姿が目に入った。
「彩さんに言ってから」
「お姉ちゃんに？」
「うん、言ってくる！」
善は急げとばかりに、ひとみは彩に駆け寄った。
「あの、彩さん！」
「おお。ひとみ、どうした？」
「あの…真希さんをウチにください！」
「ほえ？」
ひとみは手にもっていた申込書を、
彩の前にぐいっと突き出した。
彩は、じっと腕組みをして考えていた。
「本当は…ソルジャーなんかに大事な妹やれるか！
って言いたいんだけどね。
でも、あたし自身が裕ちゃんにそういうことしてるわけだし…
いいよ、ＯＫだよ。
でも泣かせた時は…殴るからね」
「ありがとうございます！！」
大喜びで戻ってきたひとみが、その後、
真希の部屋へと行ったのはいうまでもない。
そして、この十日間の圭が、
目の回るような忙しさだったことも付け加えておこう。
つづく
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