《2》

は〜、私、よっすい〜になっちゃったんだよな〜。
事務所までの道、私はいろいろと考えをめぐらせながら歩いた。
よっすぃ〜みたいにいつも笑顔でいられるかな
よっすい〜みたいにみんなに優しくできるかな
よっすぃ〜みたいに…
よっすい〜に迷惑かけないようにしよう…

「おはようございます」
「「よっすい〜、おそーい」」

見事にユニゾンで揃った声とともに
辻加護が私に飛びついてきた。

「そ、そう? 遅かったかな」

そういや、よっすぃ〜は一番先に来るのが当たり前だったっけ…。

「ひとみちゃんおはよう」

甲高いアニメ声が背後から…。
両腕は辻加護にしっかりつかまれてるので
梨華ちゃんは背中から私にくっついてくる。

「おっす! よっすぃ〜」

やぐっつあんが前から私に抱きつく。

「おはよ〜」

そしてリーダーがやぐっつあんの上を通って
私の頬にキスをした。
………!!
よしこのやつ〜
私がいなくなったらメンバーとこんなにべたべたしてるわけ?
帰ったらとっちめてやらなきゃ…。
本当にむかついたけど
今は私がよっすいーなわけだから
何とか取り繕わなきゃね…。

「重いってばあ。それにごっちんに怒られちゃう」
「えー、いつも喜んでるくせに」

喜んでるのか!!

「大丈夫だよ、ごっちん見てないし」

思いっきり見えてますけどね。
内心不機嫌極まりないんだけど、
私はよっすぃ〜なわけだから、顔は笑顔で。
ってか、これって拷問?

楽屋での待ち時間も誰かが入れ替わり立ち代り私のところにくる。
しかもみんな揃いも揃ってボデイーコンタクトつき。
くそお〜……
もうだめだ…
笑ってらんない。
急に笑わなくなった私を見て辻加護が顔を覗き込む。

「あれ? よっすい〜、機嫌わるいんか?」
「さては、ごっちんと喧嘩でもしたのれすね」
「してないよ。ウチとごっちんはラブラブだもん」
「うわ、自分で言うか?」
「昨日だってごっちん家泊まったんだもん」
「へ〜。あ、おばちゃーん、昨日よっすい〜、
ごっちんとエッチしたんやって〜」

こら、あいぼん!

「あんた、子供の前で何言ってんの!」

そう言って圭ちゃんは私の頭をはたいた。
もーやだー!
よっすい〜っていったいどう言うキャラなのさ…。
もう、今日はしゃべらないでおこう…。


収録が始まった。
最初は歌収録。
どうなんだろ、よっすぃ〜っぽく踊れてるんだろうか。

「はいOKです。プレビューします」

モニターの前に集まる娘。達
私も一番後ろからモニターを覗き込んだ。

「よっすぃ〜、踊りうまくなったねえ」

やぐっつあんが私を振り返り言う。

「そう?じゃなくて…そうですか?」
「うん。なんかねえ、今日のよっすぃ〜のダンス
ごっつあんが乗り移ったみたい」
「なんですか、それ〜」
「なんか、ごっつあんっぽいなーって思ったのさー」
「そりゃ、えっちしてたんやもんな」

私の耳元で囁くあいぼん。
エッチエッチって言うなよ…
そりゃ、よっすぃ〜はエロ全開キャラだけどさ
私はエロキャラじゃないんだから
恥ずかしいっつうの。

娘。の拘束時間はいつもよりも短くてほっとしたんだけど
一難さってまた一難。
今から吉澤家へ帰宅です。
よっすい〜に言われた通り、電車に乗る前にメールを入れて
そしたら駅を出たらお母さんが迎えに来てくれてた。

「ただいま」
「おかえり」
「疲れたでしょ」
「ううん、大丈夫だよ、ありがと」
「あら、ありがとうなんて初めて聞いたわ」
「ひっどー、いつも思ってるよぉ」

大事に大事に育てられてるよっすぃ〜が判って
自然とありがとうって言葉が出てた。

「あ、そうだ、あのさ」
「何?」
「明日からちょっと忙しいのね」
「年末に向かっていくものね」
「うん、で帰りとか遅くなりそうだからさ」
「真希ちゃんとこに帰るの?」
「うん…。そうさせてもらおうと思って」
「真希ちゃんいいって?」
「うん。よっすぃ〜の疲れた顔見るのやだから
って言ってくれてる」

これは私の本音。

「そう。いいお友達を持ったわね」

何かこそばゆいな。

「真希ちゃんに迷惑かけちゃダメよ」
「はーい」

よっすい〜って意外に信用ないのね。


「よっすぃ〜、もう家?」
『うん、今帰った』
「お母さんに言ったから、明日から暫くそっちだからね」

って自分の家なんだけどね。

『うん、ありがと』
「お母さんがね、真希ちゃんに迷惑かけちゃダメよって」
『うわ、ウチ、信用されてねえ〜』
「私も思った」

声は逆になっちゃってるけど、至極普通のいつもの会話。

「あ、そだ!」
『何?』
「あのさ、よっすい〜、
私今日、現場でみんなにべたべたべたべたされたんだけど」
『……やっぱし?』
「なんなの? アレ。
私がいないとこではよっすい〜ってああなんだ」

我ながらとげのある言い方。
よっすぃ〜の声で言うと、さらに迫力が出ちゃう。

『ごっちんがいないからとか、そんなんじゃないよ』
「うそ」
『嘘じゃないって』
「だって私の前じゃやらなかったじゃん」
『それは向こうが気を使ってくれてたんじゃん?』
「よっすぃ〜が拒めばいいじゃん」
『今日は拒まなかったの?』
「拒んだ」
『どうだった?』
「ごっちん見てないしいいじゃんって言われた」
『でしょ? それ以上拒んだら雰囲気悪くなるしさ』

よっすぃ〜は誰ともうまくやりたいってタイプ。
それもわかってるんだけど、
納得しきれない私がいて。

『ごっちんこそ』
「わたし?」
『朝、高橋からおはようメール来たり、
現場では中澤さんにキスされるし』
「あ、メール返しといてくれた?」
『ウチが返すの?』
「離れてるときは私返せないし」
『そりゃそうだけど…』
「メールのレスって返ってこないと寂しいじゃん?」
『わかったよ…返しとく』
「あ、愛ちゃんと裕ちゃんに手、出しちゃダメよ?」
『はあ? 何それ。
ウチはダメなのに、ごっちんは浮気OK?』
「だってよしこはスケベだもん。
私はそんなことしないし」

何か、今日の私、イジワルだな…。
電話の向うでよっすぃ〜の機嫌が悪くなっていくのが手にとるようにわかる。

『なんだよ、それ…
ウチってそんなに信用ないわけ?』
「あんなことされてあるわけないじゃん」
『もういいよ、また明日ね』

そう言ってよっすぃ〜は電話を切った。
…私、何やってるんだろ…。
きっと今ごろよっすぃ〜はキレて
私の顔して壁とか殴ってるんだろうな…。
んでもって私は今、よっすぃ〜の顔して泣いてる。
よっすぃ〜にギュってしてもらいたいよぉ。
でも今は私がよっすぃ〜なんだ…。
私は鏡の中のよっすぃ〜の顔をそっとなでた。


つづく

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