〜ひとみ〜
あたしは自分でもうどうしていいのかわからなくなっていた。でもたった一つ、気づいたことがある、それは今日の昼間に出した結論が間違っていたってこと。
『守るために別れる』
そんなことは不可能なんだって、今さら気付いた。…もう遅いよね。あたしはバカだ。
あたし達はいつもと同じように一つのベッドに入る。だけどいつもと違うのは、ごっちんがあたしの腕の中にいないってこと。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
今日一日よっぽど疲れたのか、ごっちんはすぐに眠りに落ちた。
背中に感じる彼女の呼吸。
彼女のぬくもり。
その一つ一つが自分を求めてくれている。
なのにあたしは大人に丸め込まれてその手を離そうとしたんだ。
『今、後藤は大事な時期なんだ』
『そんなときにスキャンダル、しかも女の子とだなんて、どんな騒ぎになるか』
『きっと、後藤は日本中から好奇の目で見られるよ』
気付いたらあたしは『彼女と別れます』そう話してた。
すごい自己嫌悪。守るどころか苦しませてるじゃん。
全然眠れずに夜中の2時、ふと寝返りを打った時に触れたごっちんの手が、異常に熱いのに気付いた。あたしはそっとごっちんのおでこを触る。
「うわ、あつっ」
あたしは慌ててキッチンから氷枕を持ってくる。氷枕をさせて、体温計を腕に挟ませると、体温計のデジタルはものすごいスピードであがっていった。
ピピピ…40.1℃。うわ…ヤバ…。
「ごっちん、大丈夫?しんどくない?」
ごっちんはハアハアと肩でいきをしながら、何も答えない。あたしはただ汗を拭いたりするしかできなくて、ただひたすらに汗を拭ってやる。そして、顔を見つめながら決心したんだ。
翌朝、あたしはごっちんに起こされる。
「よっすい〜、起きて」
「あ、ごっちん、大丈夫?」
「え?」
「昨日の夜中に熱、酷かったからさあ」
会話だけ聞くと、今も付き合ってる恋人みたいだね…。
「ごっちん…」
「何?」
「前言撤回」
「へ?」
「別れるって言ったこと」
「別れ…ない?」
あたしはこくんと頷く。
「やったあ」
ごっちんはあたしに抱きついてきた。
「うちさ、前みたいに迷わないよ。守るべきもの、間違ってた」
「守るべきもの?」
「そう。守るべきものはごっちんの地位じゃなく、ごっちんなんだ」
「…ありがとう」
目の前のごっちんは、目には涙がいっぱいだったけど、あたしの大好きな優しい笑顔になった。
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