《4》

〜真希〜


「早く着きすぎちゃったね」
「そうだね」
 よっすい〜は1時間、私は2時間も早く事務所の前に着いてしまった。今日はよっすい〜の怪我があったから、向こうで病院にいって、こっち帰ってきてから、痛み止めの注射をしに行って来たんだけど、まだ時間が余ってしまった。どうしようかと思いをめぐらせてると。
「あれ〜、ごっちんに吉澤やん」
 聞き覚えのある声が。声の方向を見るとそこには裕ちゃんがいた。
「どうしたんや?」
「いや、早く着きすぎたからどうしようかなって話してたの」
「そっか〜、じゃあお茶でもしにいく?」
「裕ちゃんは大丈夫なの?」
「ん〜? 裕ちゃんもはよ着き過ぎやねん」
 裕ちゃんの言葉に爆笑しながら、私たちは近くの喫茶店へと行くことにした。私は足元においていた2人分の荷物を右手にもつと、左手をよっすい〜の前に差し出した。何の衒いもなくよっすい〜は私の手に捕まって、足を引きずりながら歩き出す。…と、
「吉澤、足、どうしたんや?」

 私とよっすい〜は喫茶店に入って昨日の出来事を裕ちゃんに話した。
「はあ〜、あんたら、怒られるで〜」
「だよね…」
「ってか、吉澤、あんたが怒られるわ」
「ですよね…」
「へ? なんでよっすい〜だけ?」
「冷静に考えて、あんたは怪我してへんやん? それにソロで仕事やってるわけやから万が一ごっちんが怪我してたとしても自分のミスは自分で全部しょえばいい。でも吉澤、あんたはグループの中の一人や、あんたが怪我したらみんなに迷惑かかるわ。しかも、プライベートでの怪我やから言い訳もできんで」
「でも裕ちゃん、よっすい〜は私かばって怪我したんだよ?」
「それはそれ、これはこれ、や。あんたらはなあ、商品やねんで? 顔も身体も商品やねん。それを忘れたらあかん」
 私は無意識に、よっすい〜がくれた指輪を右手でなでていた。そして、よっすい〜もそうしてたみたいで。
「なあ」
 裕ちゃんがまっすぐに私たちを見据えた。
「…私から見た2人は、すごい仲良くて、プライベートでもよく遊んでて。それだけやないんか?」
「…え?」
 裕ちゃんの目が私たちの左手の薬指に向けられているのにきづく。女の子同士でおそろいの指輪をするのはそう珍しい話ではない。でも、それがこと左手の薬指となると意味が違う。隣りのよっすい〜が一つ深呼吸をした。
「…付き合ってます。恋人同士として」
 そのとき、よっすい〜の携帯がメールの着信を知らせる。メールチェックをしていたよっすい〜の顔が段々とこわばっていくのが見えた。
「よっすい〜?」
「…今すぐ事務所に来いって」
「え?」
「ばれた」
「は?」
「ウチとごっちんのこと、パパラッチに撮られたんだよ」
 私は今まで見聞きしてきた、ばれて別れさせられた芸能界のカップルの話が思い出されて、思わずよっすい〜の手をぎゅっと握った。
「大丈夫だよ。離れたりしないから。こんなことで離れたりしないから。じゃあ、いってくるね」
「私も…」
「一人で行くよ」
 一緒に立ち上がりかけた私を、よっすい〜は制した。
「ごっちんもきっと後からスタッフから呼び出されるから、今はうち一人で行ってくる」
 静かだけど決意に満ちた目でよっすい〜はそう言って先に店を出ていった。

 沈黙が流れた。裕ちゃんが私をじっと見てる。ねえ、軽蔑した? 女の子であるよっすい〜にこんなに夢中になっちゃってる私をどう思ってる?
「あの子さあ」
 裕ちゃんがゆっくりと口を開いた。
「一人で全部背負い込むつもりやな」
「え?」
「吉澤、女やけど、そこらへんのヘナチョコな男なんかよりもよっぽど男気あるからなあ」
「…裕ちゃん」
「いっといで」
「うん」
 私はものすごくいやな予感を胸に抱きながら、事務所へと走っていった。

 つづく

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