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深夜1時起床、2時集合、前ふりを撮って3時出船。
1時に起した時は寝ぼけてフラフラしていたごっちんも
2時にはプロの顔で集合する。
むろん、朝食はとらない。
「よしこは食べていいんだよ」って言ってくれたけど、
一人だけ食べるわけにもいかないのでつきあって朝食抜きだ。

「ちょっと時化ってますけど、行っちゃいますんで」

ADくんの言葉にごっちんは苦笑する。
岸から見てもうねってる波は、
ごっちんにとって恐怖でしかないんだろうな…。


案の定、出船して時間が経つにつれ、ごっちんは口数が少なくなる。
あたしにしてあげられることは?

「ごっちん?」

声をかけると、ごっちんはあたしにもたれてきた。
あたしが出来ること、
背中を擦ってあげて、あとは気が紛れるように
ずっと話し掛けてあげていた。
カメラがまわってない間のごっちんはずっとそんな感じで
一匹でも釣れないと帰港できないとあって
ごっちんの状態はどんどん悪くなっていた。

「…もう無理だよ、延期してもらお?」
「大丈夫…吐いてくる…」

そう言ってごっちんは船の先端へ。
船から身を乗り出すごっちんを、後ろから支えてあげるしか出来ない。
暫くそうしてると、ごっちんが涙目で

「メイク大丈夫? 涙で落ちてない?」

そう聞いてきた。

「うん、大丈夫だよ」

そしてカメラが回り始めると、
そんなことは微塵も見せない笑顔になった。
……プロだ…。

それからもカメラが回ってるとしゃきっとするごっちん、
カメラが回ってないと船の先端で苦しむごっちん。
そのメリハリに、あたしは目を見張るしかなかった。


やっと昼近くになって一匹釣れてOKがでる。
帰港する道中はごっちんはあたしにもたれてグッタリとしている。

「ごっちん、しんどい?」

こくりと頷くごっちん。
あたしは港に着くまで、後ろからぎゅっと抱きしめていた。

 

その日、ごっちんは、夜まできっちりと仕事をこなした。
顔色はずっと悪かったけど、
きちんと笑顔でカメラに向かった。
宿に帰って、やっと、彼女は大きなため息をついた。

「終わった…」
「お疲れ様」
「疲れたよぅ」
「よく頑張ったね」
「ねえ、よしこぉ」
「ん?」
「ぎゅうして?」
「いいよ」

あたしはごっちんを抱きしめた。
あたしの胸の中で、ごっちんはふう〜っと大きく息をつく。

「もう大丈夫?」
「んー、なんかねえ、まだ胃を掴まれて振り回されてるような感じするけど…」
「え? 大丈夫?」
「ハハ、大丈夫だよ。いつものことだし」

あたしの腕の中にいるこの子は、
まだ紛れもなく17歳で、
でも驚くほどにプロで。
あたしに欠けていたのはこれなんだ。
もう出来上がっているモーニング娘。に
同期四人と一緒に加入して
順送りでパートをもらい
いきなりでかい箱でのライブをやって。
果たしてあたしにハングリー精神はあったのか?
ごっちんほどのプロ意識はあったのか?
スタッフはきっと、
ごっちんからこれを学べって言ってるのだろう。
今、あたしの腕の中にいるふにゃ〜っとしたごっちんは
テレビカメラの前に立つと別人のようになる。

「ねえ、このまま、抱っこして寝てくれる?」

…はは、180度別人だよね。
両方のごっちんを知ってるあたしだからこそ
学べるものがあるはずなんだ。
この一週間が終わった後、あたしは何を掴んでるんだろうか。


つづく

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