《9》

ひとみ視点

ウチは競技会を必死でがんばった。
もちろん、真希ちゃんにいいところ見せたかったから。
じゃないと、毎日疲れて帰ってきて
真希ちゃんの手を焼いていることへの理由がたたない。
そしてその結果が団体優勝に個人特別賞。
ウチはトロフィーを真っ先に真希ちゃんに見せたくて
観覧席に駆け寄った。

なのに…
突然現れたこいつは誰なんだ?
妙に真希ちゃんに対してなれなれしくて…
そしたら、真希ちゃんの口から衝撃的な言葉が発せられたんだ。

「私の…元カノ…」

カノってことは彼じゃなくて彼女なんだよね?
ってことは、その昔、真希ちゃんは女の子と恋愛してたってことになるんだよね?
女の子を愛せちゃう人種ってことだよね?

「元カノ? 付き合ってた…人?」
「うん…。でも、もうそれも昔の話。行こ」

真希ちゃんはその市井さんって人の存在を無視するかのように歩き始めた。

「いいの?」
「何が?」
「あの人」
「いいの。私を振った人になんか用はない」
「振った? 真希ちゃんを?」
「うん。じゃあなってその一言だけで私を捨てて夢を選んだ人」
「……」

なんていってあげて言いかわからなかった。
そんなうちの心中を察したのか、真希ちゃんは笑顔をウチに向けた。

「もう大丈夫だよ? 昔のことだもん。
気にしないで」


気にするよね、普通…。
その夜は、ひとつのベッドに入っても何か目を閉じる気になれなかった。
隣には眠れないのか、何回も寝返りを打つ真希ちゃん。
ウチは、真希ちゃんの髪に手を伸ばした。
そっとその髪に触れてみる。
驚いたように真希ちゃんがこっちを見た。

「寝れないんでしょ?」
「…うん」

ウチは、この前、真希ちゃんがしてくれたように
真希ちゃんの頭をそっと撫で始めた。

「ひーちゃん…」

情けない声を出す真希ちゃん。

「いいよ? おいで」

ウチが出した左腕に真希ちゃんはそっと頭を乗せる。

「ごめんね? 今日だけは…こうしてて?」
「うん…」

本当は今日だけじゃなくてもいいんだって
そんなことは言えやしないけど。

 

悪いことは続くもんだ。
それから数日後、真希ちゃんが忘れていった携帯が
テーブルの上で何回も着信を告げるのを
ウチは目の当たりにしてしまった。
ダメだ…
見ちゃダメだよ、ウチ…
ウチの中で勝利したのは悪魔だった。
覗き見た着信履歴、
そこをずっと埋め尽くしている「梨華ちゃん」って文字。

……
………
真希ちゃんが女の子も愛せる人だって知って
少しは希望を持ったウチだった。
でも…
市井さんに石川さん、ウチの入る余地なんてないじゃん。
一番近くにいるはずなのに
一番遠いんだね、ウチ。
何か、胸の奥が痛いよ、真希ちゃん。
こんな気持ちになるんだったら、もっと早くに気持ち、打ち明けとくんだった。

 

そんな時、ウチに内示があった。
この前の競技大会を見ていた
消防庁の偉いさんからの直々の提案で
航空救助隊への転属って言う話。
転属になれば勤務地は羽田になる。
ここを出て、羽田の近くに家を借りるのもいい手かもしれない。
なによりももう、ウチは真希ちゃんのそばにいないほうがいいんだ。
このまま気持ちが募ったら、ウチは真希ちゃんに何をするかわからないし
真希ちゃんにとっても、石川さんや市井さんに変な誤解を受けなくてすむし。

ウチはその内示を受けることにした。

 

「ねえ、真希ちゃん」
「ん?なあに?」

久しぶりに一緒に夕食のテーブルを囲んで
ウチは話を始めた。

「あのさ、ウチ、転属することになったんだ」
「レスキューやめちゃうの?」
「ううん、同じレスキューだけどさ、
航空救助隊に行くことになった」
「すごい…」
「うん、それでね、勤務地が羽田なんだ」
「羽田?」
「そう。だからさ、ここ、出ることにした」
「え?」
「もともと、うちに新しい住処が見つかるまでって話だったじゃん?
だから、マンション、羽田に近いとこでで捜したんだ」
「…見つかったの?」
「うん…来週引っ越す」

そこからは、何か会話のない夕食になってしまった。

 

つづく

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