《5》

ひとみ視点

すんごい苦しくて、死んじゃうんじゃないかってマジで思ってて…。
「吉澤」って呼ばれる声に顔を上げたら保田さんがいた。
保田さんを呼んだこと、ウチは後藤さんに怒った。
そうでもしないと保田さんに示しがつかないって思ったから。
そしたら逆に保田さんに怒られた。
後藤さんがウチのことで半泣きになってたって聞かされた。
どうして?
あってまだ数日のウチのことで泣いてくれるの?

保田さんが帰り際、
「こんなかわいい子、泣かしちゃだめよ」って言った。
…なんてこと言うんだ。
……意識しちゃうじゃん…。

オレンジ色の制服を目指し始めたときから、
ウチは女であることを捨てた。
そしたら男を異性として見られなくなってしまった。
男と対等にならなきゃいけなくて、
うちにとって同姓は男、異性が女って感じだった。
好きななるのは女の子ばっかりで…。
でもそれは言っちゃいけないことで…。
ウチは口に出して言ったことはない。
将来は普通に男と結婚をするだろう。
子供も生むだろう。
だってそれが普通だから。
今も普通に彼氏いるし。

そんなウチの前に突然現れた後藤さんで、
かわいいって最初から思ってたけど、
保田さんに改めて言われて、なんかテレくさかった。
ああ…ほら、後藤さんが不思議そうな顔で見てるじゃん。


「中、はいろっか」
「うん…」
「そういえばさ、何でウチの職場わかったの?」
「ああ、雑誌みたの」
「あ、あれってもう売ってんの?」
「いや、今日もらったんだけど」
「え?」

何で発売前の雑誌を見たんだろうって不思議だったんだけど
その疑問は部屋に帰って解決した。
後藤さんが見せてくれたその雑誌には
流行りの服を着た後藤さんが、
何ページにもわたって微笑んでいた。

「すげ…モデルなの?」
「うん、売れてないけどね」
「そんなことないよ、こんないっぱい載ってるじゃん」
「ありがと」

ウチ、モデルのこと友達なんだね。すげえや。

 

「あー、腹減ったぁ」
「だねえ、気がついたらもう夕方だもんね」
「何か食いにいく?」
「へ?」
「んっとさ、何ていうのかな、引っ越し祝いっていうの?」

われながら、むちゃくちゃな理由だよな…。

「そのお祝い、次のお休みの日にしない?」
「じゃあ明日だ」
「へ? 明日なの?」
「ウチらの仕事はね、一勤一休でその間に週休が一日入るから
三連休が頻繁にあるんだ」
「そっかぁ。じゃあデートは明日」
「OK」
「今日はさ、喉、疲れてると思うから
雑炊作ってあげる」
「やったー」


後藤さんが作ってくれた雑炊は
野菜がたっぷり入ってて、どれも柔らかく煮込んであって
空っぽになった胃袋にもすんなり入った。

「美味い」
「本当? よかった」

 


それから後藤さんは、毎日食事を作ってくれるようになった。
ウチは別にいいって言ったんだけど、大変だろうからって言って。
朝起きるとご飯ができてて、勤務を終えて帰ってきてもご飯ができてて。
ウチにとってはめっちゃ幸せな暮らしだった。


そんなある日、

「聞いて! ビッグニュース」

後藤さんは帰ってくるなり、そういいながら駆け寄ってきた。

「何? どうしたの?」
「今度ね、テレビのリポーターやるの」
「そうなの? よかったじゃん」
「うん! それでさ、新宿消防署行くんだよ?」
「へ? うち?」
「うん。体験レポなんだって」
「そうなんだ…。ウチがいるときだったらいいね」
「きっとそうだよ。女性隊員がいる班に入るって言ってたもん」
「まじ? やった!」

いつもいつもお世話になっている後藤さんにかっこいいとこ見せるチャンスじゃん。

 

そして取材の日、女性ということでうちが後藤さんを案内する役になった。
一個一個先輩たちが訓練をしてるところを回って紹介する。
そして後藤さんの目の前でウチが実践して見せたりする。
はしごを駆け上る
腕だけでロープを上る
命綱ひとつで高所に張ったロープを移動する
どれもこれもキラキラした目で後藤さんが見てくれて
ウチがいつも以上に張り切った。
いつも以上のタイムが出て、一緒に案内している隊長が苦笑している。

「じゃあ、今度は後藤さんに要救助者になってもらいましょう」

隊長の一言でウチと後藤さんは訓練用のやぐらの上に上がる。
ウチがその高所から一本のロープだけを使って救出する。
…はっきり言ってウチはこの訓練が苦手だ。
ウチは164あるって言っても隊員の中では小さいほうだ。
そこに、一人の人間を一緒に抱えて降りるって言うのは
かなり無理のある姿勢になってしまうんだ。
でも、きっと今日のうちのハッチャケぶりを見た隊長が
勢いで行けるって判断したんだろうな。


「じゃあ、いくね」

いつになく真剣な声のトーンのウチに
後藤さんの表情がこわばる。
ダメじゃん。
消防隊員たるもの、要救助者の前では不安を感じさせちゃいけない。
ウチは笑顔を浮かべる。

「大丈夫、任せといて」

打ちは自分と後藤さんの身体をしっかりと救助装置で固定すると
カラビナをロープにかけた。

「行くよ」

ウチはロープを握ると足で屋上をけった。
両腕にかかる二人分の体重。
ウチは奥歯をかみ締めた。
一人で降りる時と違って、要救助者が一緒の時には
ゆっくりとしたスピードでおろさなきゃいけない。
後ろからでも後藤さんが緊張しているのがわかって
ウチは後ろから声をかける。

「大丈夫だからね。ウチがついてる」

後藤さんはこくりとうなづいてくれた。
程なくして地上に到達、この訓練は終わる。

「女の子なのにすごいですね」
「こいつは腕力は男並みだからねえ」

って、ひっでえなあ、隊長。

 

取材が終わったあと、プロデューサーが食事に誘ってくれた。
非番の日に取材のために出勤していたウチらは
ありがたくこの話を受けることにした。
ウチらの隊5人と広報担当の男女二人の職員が同席した。

話の中心は後藤さんで
隊員みんなが「かわいい」って言ってる。
広報の女の子…石川さんまで言ってるのには驚いたけど。
まさかウチと同じタイプの人間じゃないよねえ?

 

つづく

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