《3》

ひとみ視点

後藤さんの作ったご飯はめっちゃ美味しくて、自然に顔がほころんだ。
食べ終わると後藤さんは
ウチに今後どうするのか聞いてきた。
ウチがここに決めたのは職場から近いからだ。
ウチの職場は男社会で、
対等に訓練をこなそうと思うと、かなりがんばらなきゃいけなかった。
小さいころから、オレンジの制服にあこがれて。
でも男しか隊員がいないって知って
でも全くなれないわけじゃないって聞いて
ウチは普通の倍がんばった。
その成果で消防学校ではTOPの成績だった。
現場に戻ってからもがんばった。
特救隊志望だってこと、最初は笑われた。
女にできるわけないって。
でも、なにくそってがんばった。
身体も苛め抜いた。
そのおかげでウチの体力はそこら辺の男に引けを取らない。
毎日、寮に帰ってきたら泥の様に眠ったけれど
それでも毎日充実していた。
そして現場に出て、最初の特救隊試験に推薦してもらって
一発で合格した。
最初の女性特救隊員になったんだ。
今回の一人暮らしはがんばった自分へのご褒美。
安くはしてもらってるけど、
少し奮発して職場に近いここを選んだんだ。


どうせ、寝に帰ってくるだけだからって、
ウチは後藤さんに言った。
今日みたいにソファだって十分だ。
ウチは普通にそういった。
でも、後藤さんはその言い方が気に入らなかったらしく、
目を見て言えって言われた。
なのに、ちゃんと目を見たら
後藤さんがそらした。
変なヤツ…。
ついでだから、ウチは後藤さんをじっくり観察した。
長い髪に大きな目、高い鼻。
すごく整った顔立ちをしている。
なんかのミスで共同生活をする羽目になった相手が
こんなかわいい子でよかったって思うウチは
ちょっと変なのかな。


「あのさ、夕方にウチの荷物届くんだけどさ」
「荷物?」
「うん。っていっても、服と靴とトレーニング用具くらいなんだけど」
「引越しの…」
「そうそう。どこに置いたらいい?」
「どうしよう…ベッドルームは私の荷物でいっぱいだし…」
「ここ、置いていい?」
「ここ?」
「うん、少ないしさ、だめ?」
「いいけど…」

昨日、夜中に出動があったウチは
あまり仮眠が取れなくて、
またそこから眠りに落ちた。

 

次に目を覚ますともう外は暗くて…。

「あ! 荷物!!」

ウチがいきなり叫んだもんだから
キッチンにいた後藤さんが驚いて飛んできた。

「どうしたの?」
「いや…あの、荷物…ついた?」
「うん、そこに置いといた」

ふとリビングの隅に目をやると、きれいに段ボール箱が並べてあって…。

「あ…ごめんね」
「それくらい、いいよ? 
吉澤さん、すっごい気持ちよさそうに寝てたから
起こすのかわいそうかなって思って」
「ありがとう…」
「もうすぐ、ごはんできるから」
「え? あ、うん…。別にいいのに…」
「うん、でも今日だけ特別。
なんかすごい疲れてそうだから、今日だけは作ってあげる」

正直ありがたかった。
寮を出て、何がつらいかって自炊がつらいんだ。
疲れて帰ってきて、ご飯作るなんて、
考えただけで気が遠くなる。
でも、体力維持のためには食べないわけに行かないし。

「きっと、毎日こんなだよ」
「え?」
「ううん、なんでもない」

まさか、毎日、作って? なんて言えるわけない。
虫が良すぎるってもんさ。


「今日は仕事は?」
「ん?休み。また明日の朝から仕事だよ」
「そっか」
「後藤さんは?」
「私も今日は休み」
「そっか」

こうして、第一日目は当たり障りなく終わった。


翌朝、ウチはまだ後藤さんが寝ている間に家を出た。

 

特別救助隊はそうそう出動があるわけでもなく、
っていっても、うちらが忙しかったらそれはそれで問題なんだけど
何もないときは訓練の毎日。
訓練はつらいけど、
出動よりかはましだ。
うちらレスキューは、普通の消防隊、救急隊が
手に負えない現場に出動するわけで
それはもう、悲惨な現場もあるわけで。
ウチはまだ、特救隊に配属されて間もないっていうのに
もうすでに交通事故の即死現場にも出くわした。
隊長が、お前、運がいいんだから悪いんだかって苦笑したのを覚えてる。
毎日、訓練をしながら
今日も何事もなく過ぎますようにって祈ってた。

その日は24時間勤務も明けようかっていう
午前7時、出動サイレンが鳴った。

「現場は自動車販売店。奥の修理工場より出火。
二階住居に住人が取り残されている模様」

なんで? それなら消化部隊でOKなはず。

「なお一階部分には自動車修理改造のためのオイル類
化学反応を起こしやすい薬品類、鉄くず、鉄粉などがある模様」

隊に緊張が走る。
鉄くず、それがアルミだったりすると禁水なわけで
乾燥砂をかけ、自然鎮火を待つしかない。
そして、その中での救助活動は完全装備でのレスキューの出番となる。

ウチらが現場に着くと、火より煙がすごかった。
やはり鉄くずが燃えてるんだ。
ウチは他の隊員にしたがってもくもくと防護服を着込み、
酸素ボンベをしょった。


「入るぞ」

乾燥砂を抱えたウチらはビルの中へと侵入する。
すごい煙だ、
前が見えない。
涙が出る。
それでも身をかがめて前へと進む。
ウチらを待ってる要救助者がいるから。
ウチらが消火点を見つけなければいけないから。
途中、二手に分かれる。
ウチは隊長と組む。

「ここだ!」

隊長が火元のドラム缶を見つけた。
中には案の定アルミの粉が煙を上げていた。

「乾燥砂 投入」

ウチは持っていた袋から乾燥砂を投入した。

「馬鹿!! 面体つけろ!!」

隊長が叫んだけど、遅かった。
ウチらは空気呼吸器をぎりぎりまでつけない。
なぜなら今日みたいな長期戦になりそうなときは
酸素ボンベの内容量が限られているから
節約するためだ。

でも、この現場は違った。
砂を投入すれば、煙も粉塵も上がるに決まっている。
ウチは煙とアルミの粉をいやというくらいに吸い込んでしまった。

「ゲホゲホゲホ…」

咳が止まらない。
隊長が呼吸器の面体をかぶせてくれたけど
息がすえない。
いきなり大量に吸い込んだ煙と粉塵に、
気管支が収縮してしまってるようだった。

ウチは隊長に引きずられるようにビルの外に出た。


外に出て、新鮮な空気を吸っても咳き込みは止まらない。
咳き込んでは吐き、咳き込んでは吐きを繰り返した。
機関員の先輩が様子を見に来てくれたけど
「あ〜あ、美人が台無しだな」
って言われたから、相当すごい顔してたんだろう。

帰りの消防車の中で、隣に座った隊長がタオルを渡してくれた。

「顔、すすだらけだぞ」
「すいません…」
「悪かったな、もっと早く指示してやるべきだった」
「いえ…」

喉の違和感が治らなくて、話すと咳き込んでしまうので
必要最低限しか話せないのが歯がゆい。
面体をかぶらなかったのはウチのミスなのに
隊長は頭を下げる。

「こういうのは隊長の俺のミスなんだ。
特にお前みたいな新人には俺が指示してやらなきゃいけないんだ」

って、そう言った。

「俺はお前ら部下の命預かってるんだから」

そんな言葉がすごく重かった。

 


署に帰ってからの訓練は
さすがにウチは免除された。
まだ、ケホケホと咳き込んでいるから
早く帰れと追い出された。
帰り道でも電車の中でも、肺病のような咳を繰り返すウチを
みんな白い目で見ている。
居心地悪いよ…。
早く帰ろ…。


家に帰ったウチはソファに倒れこんだ。
徹夜明けで体調を崩したから、思いっきり体力を消耗してて
何をする気も、何を食べる気も起こらなかった。
ああ…喉が痛い…
収縮した気管支のせいでうまく息がすえない。
深呼吸すると、喉が刺激されて咳込む。
悪循環だ…。
ウチ、息の仕方、忘れたのかな…。
寝転んで咳込むのはつらいから、ウチは身体を起こす。
それの繰り返しだ。
ウチはまだ起きてないであろう後藤さんを起こさないように
毛布を頭からかぶって横になった。


つづく

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