《10》

 あたしの病室に巡回に来たドクターが意外なことを言い出した。

「後藤さんってあなたのお友達かな?」
「ええ、そうですけど」
「うちの他の科のドクターが話があるって言ってるんだけど
今度来られたら、私のところに声をかけてくれないかな」
「わかりました」

 なんなんだろう。
その日の午後、見舞いに来てくれたごっちんを連れて
あたしはドクターを訪ねた。
 そしたら、そこには、眼科や脳神経外科のドクターたちも集まってきて

「それってまじですか?」
「ええ。成功率は100%とはいえませんが」
「…もし、失敗したらどうなるんですか?」
「脳のことだからね。
いろいろある」
「…ちょっと考えさえてください」
「いい返事待ってるよ」

話は、ごっちんの視力を戻す手術のことだった。
ごっちんの失明は、目自体がダメになったわけでなく
腫れた脳が視神経を圧迫してなったものだった。
なので、開頭して圧迫している部分の治療をするらしい。
日本では最近入ってきた手術法らしく
まだ前例は少ないらしい。
成功率は50%
失敗すれば半身不随、植物人間
そんなリスクもあるという。
病室に戻ったあたしたちは
さっきのドクターの話を考えた。

「私…手術受ける」
「え?」
「少ない望みにかけてみる」
「でも…リスクもあるんだよ?」
「わかってる。
でも、もし治ればまたよっすぃ〜の顔見れるじゃん」
「ごっちん…」
「私…もう一度よっすぃ〜の顔みたい
この目で…よっすぃ〜の大きな目、見たい」

 あたしは、そんなごっちんに何もいえなかった。
リスクばっかり考えて
見たいってごっちんの気持ち考えてなかった。

そして、ごっちんのオペは10日後と決まった。


その日、
ごっちんはとても穏やかな顔をしていた。
今からオペ台に上るとは思えないくらいの穏やかな笑顔。

「ごっちん…」
「ん〜? 何、そんな泣きそうな顔してんの?」
「だって…」
「大丈夫だって。
必ず帰ってくるから」

そう言ってごっちんはあたしの頭をくしゃくしゃってなでた。
逆だよな…
情けな…。

手術室のランプが点灯した。
あたしは手術待合室でずっと待つ。

「よっすい〜」

あたしを呼ぶ声に顔をあげると、
そこに彩さんがいた。

「石黒さん…」
「始まったの?」
「ええ、今さっき」

彩さんはあたしの横に腰掛ける。

「なんちゅう顔してんの」

あたし、よっぽど情けない顔してるんだろうな。

「よっすぃ〜が気持ち負けてたら、ごっちんも頑張れないでしょ?」

ダメだ…
彩さんの、優しい言葉聞いてたら、胸の奥が熱くなってきた。
きっと、目ももうウルウルだ…

「ちょっと、歩こうか」

それに気付いた彩さんが、あたしを外へと誘ってくれた。


あたしたちは病棟の屋上へ行った。
誰もいない、あたしと彩さんだけの空間になったら
あたしは涙を堪えていられなくなった。
あとからあとから、涙があふれ出てくる。

「いいよ、泣きな
ここんとこいろいろありすぎたもんね?
ないてすっきりすればいいさ」

彩さんはあたしを抱き締めてくれた。
ごめん、ごっちん
今だけは…いいよね?
許してね
泣くだけ泣いたらちゃんと復活するから…。

あたしも彩さんの身体をぎゅっと抱き締めた。
彩さんはあたしの涙が止まるまで、
ずっと頭とか背中とかなでててくれて。

「ごっちんの手術終わったら
結果はどうであれ
笑って迎えてあげるんだよ?」
「はい…」

そして、8時間にも及ぶ手術が終了した。

つづく

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