《4》


「ねえ、ほんっとに大丈夫?」
「もう、よっすぃ〜は心配やさんだなあ。
大丈夫だからお仕事いっといで?」

その日は朝からごっちんがおなかが張り気味だって言ってて。
うちは朝から大阪でのライブのために移動なわけで
件の会話となる。

「なんかあったら絶対連絡してよ?」
「うん、わかった」
「無理して我慢しちゃだめだよ?」
「わかったよ。
なんかあったら家、運転できる人多いんだから大丈夫だって」
「うん…」
「ひーちゃん?」
「ん?」

俯きがちだったウチが頭を上げると
ごっちんが頭をふわっとなでてくれた。

「真希ぃ」

情けない声が出た。

「お仕事、がんばってきてね」
「うん…」

ウチは後ろ髪を引かれる思いで家を出た。

 

新幹線の中でも、ライブの控え室でも、
落ち着かないウチ。
頻繁にメールを打つ。

『ひーちゃん、仕事、大丈夫?』

しまいにはそんなレスが返ってくる始末。
安倍さんややぐっつあんは苦笑しながら見てるし、
あ〜、もう…。

 

そして昼の部の公演前…

♪♪♪〜

『あのさ、今から入院するから。
大丈夫だから、心配しないで?
本当は黙ってようかと思ったけど
後でわかったら怒るでしょ?
ちゃんと報告したから、ひーちゃんは
ステージがんばるんだよp(*^-^*)q 』

ウチは暫し、携帯を握ったまま固まる。

「よっすぃ〜? どうかした?」

矢口さんがそんなウチを見て携帯を覗き込む。

「お、ごっつあん、いよいよか」
「ええ…」
「はは、よっすいぃ〜が堅くなっててどうする?
ごっつあん初産なんだから、時間かかるよ?
どーんと構えとけ?」
「何で矢口さんがそんな詳しいんですか?」
「そりゃ、現場に常にマタニティ雑誌があるんだもん、
詳しくもなるっちゅうの」

雑誌持ち込んでるのはウチなんだけどね。

「がんばれ〜、パパ」

矢口さんが背伸びをしてウチのほっぺたをぐにゅぐにゅする。
それからも入れ替わり立ち代り、
矢口さんから話を聞いたのであろうメンバーが
ウチを励ましに来てくれる。
正直ありがたかった。
今、一人で仕事なんかしてたら、
ウチはおかしくなってたかもしれないって思った。
ごっちんはそういう重圧にも耐えてきたんだって思うと、
改めてそのすごさに感心した。


ライブの間は考えないようにがんばったつもり。
でも夜の部を前にすると、
もうそろそろかと思ってそわそわしてきた。
ごっちんには出産経験のある一番上のお義姉さんがついてる。
だから安心していいんだけど…。

「もしもし、おっきい姉ちゃん?」
『ひとみちゃん? どうしたの? ライブ中じゃないの?』
「うん…。今から夜の部なんだけど…」
『真希?』
「うん…。真希の様子、どう?」
『真希、がんばってるよ、だからひとみちゃんもがんばって?』
「うん…」
『ちゃんとビデオにとってるから』
「わかった」
『もうすぐだと思うから、ちゃんと産まれたら連絡入れるから』
「おねがいします」

ごっちんがんばってるんだ…。
ウチもがんばんなきゃね。
ウチらの子供が大きくなったとき、
きみが生まれたときのパパはヘタレだったなんてしゃれになんない。


夜の部、ウチははじけた。
ごっちんのこと、なるべく考えないように。
でも、ごっちんに届くようにがんばった。

そして、アンコール前―。
衣装換えに戻った控え室で、
外でスタッフが話してるのが聞こえた。

「後藤、産まれたってよ」

あたしは思わず外のスタッフに向かって叫んだ。

「ほんとですか!!」
「な、なんだ? 吉澤?」
「はい。ごっちん、産まれたんですか?」
「ああ、さっき電話があった」
「それで、どっちでした?」
「女の子だって」
「ごっちんは?」
「元気だってよ」
「よかった…」

ウチはあふれそうになる涙を、上を向いて抑えた。
衣装スタッフが不思議そうな顔で見てるよ。

「よっすぃ〜?」
「だって、嬉しいじゃないっすか」

うまくごまかせたかな。

メンバーは、ステージに上がる途中に
こっそりとみんなおめでとうって声をかけてくれた。


「えっと、実はさっき連絡があって、
ごっつあんに無事女の子が産まれました」

安倍さんがアンコールのステージで、突然そういった。
ファンの子達が口々におめでとうって言ってくれる。

「きっと親友のよっすぃ〜は帰ったら会いに行くと思うから
みんなのおめでとう伝えてもらおうね」
「きっとごっちんに伝えるからね。
ごっちんの代わりに…みんな、ありがとう」

ウチは、頭を下げた。
事情を知ってる安倍さんの、心憎いプレゼントだった。

 

ライブが終わって着替えると、矢口さんが手招きをしてた。

「よっすぃ〜、これ」
「はい?」

矢口さんが手にしてるのは、ウチらが乗る予定の新幹線の切符。

「スタッフにタクシー呼んでもらってるから
今すぐ行って、乗れる一番早いやつに飛びのんな?」
「でも…」
「大丈夫、スタッフも納得済み。わかったら早く行く!」
「すいません、ありがとう!」

 


東京に着いたら、もう深夜に近かった。
あわててタクシーに飛び乗り、ごっちんが入院してる病院を告げる。
病院が近づくにつれ、高鳴るうちの胸。
落ち着け、ウチ。

ごっちんの病室のノブを回す手はかすかに震える。
ウチはごっちんを起こさないように静かに部屋に入った。

「…ひーちゃん?」
「あ、ごめん、起こした?」
「ううん、起きてた。
やぐっつあんから、よっすぃ〜そっち向かったぞ〜ってメール来たし」
「そっか」

暗闇に、常夜灯のライトだけの中のごっちんの笑顔。
なんかめっちゃきれいだった。

「ありがとう…おつかれさま」

そう言ったら涙があふれてとまらなかった。

「もう、何泣いてんの?」
「だって、だって…」
「でもよかった。泣いてくれた」

そう言うと、ごっちんはウチを抱きしめた。

「ひーちゃんさ、私と付き合うようになってから
泣かなくなったでしょ? 心配してたんだから。
全部…泣きたいような感情は全部内に秘めちゃったんじゃないかって
すっごい心配だった。
だから…よかった…」

声が震えてるのは、ごっちんも泣いてるから?

「赤ちゃんね、明日の朝、一緒に見に行こうね」
「うん」
「すっごいかわいい女の子だよ。って親ばかかな」

そういって、ごっちんはアハッて笑う。

「でも、欲しかったんだ、ひーちゃんに似た女の子」
「ウチに、似てるの?」
「うん、そっくりだよー。目がくりくりしててかわいいの」
「そっか〜、似てるのか」

なんか…こそばいゆいな。

その後、ウチらはごっちんが陣痛の最中のビデオを見た。

『ひーちゃんー、痛いよぉ』
『もうやだよぉ』

ずっとそんなこと言ってたごっちん。
ウチはいたたまれずにごっちんの手をぎゅって握った。

「もう見るのやめよっか」

うちの顔を覗き込んだごっちんが言う。

「なんで?」
「ひーちゃん、顔色悪い。
おなか痛いのまで移ったら困るもん」

はは…たしかにそうだ。

 

翌朝、ウチらは新生児室にベイビーの顔を見に行った。
確かに…目がおっきいや。
間違いなくウチの子だ。
なんか…夢見たいだな。
何だかんだ言って、ずっと夢じゃないかって思ってた。
でも…現実にここにウチらの子供がいる。
ウチに似ておっきな目、二人に似てちょっとたれ気味で、
ごっちんに似て高い鼻
美人になるぞ〜ってうちも十分親バカか。


つづく

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