《2》
二ヵ月半後―。
ライブの楽屋でマネージャーがごっちんのマネージャーに電話していた。
「後藤、大丈夫なわけ?」とか何とか聞こえてくる。
気になったから、電話を切ったマネージャーに聞いたら、
ごっちん、過労で倒れたって。
ウチ、慌ててごっちんにメールした。
即レスが返ってきたけど…。
『よしこー、気持ち悪いよぅ。生理も来ないよ。
どうしよう…。まさかねえ』
「まじぃ!!!!!!!」
思わず叫んじゃったから、みんながウチを見た。
「よっすぃ〜、どうかした?」
「い、いや、なんでもない」
ウチは慌ててごっちんにメールを打つ。
『まじ? あれって夢じゃなかったの?
病院、ついていこうか?』
また、即レス。
『うん…お願い』
ったく、付き合ってるカップルの会話かっちゅうの。
翌日、ウチは朝一でごっちん家に行った。
「ごめんね」
「ううん、いいよ。どう? 具合」
「気持ち悪いんだよね…」
ごっちんはすっごい顔色悪くて…。
かわいそうだな…。
病院に着いて、ウチはずっとごっちんの手を握っていた。
いつもながら男っぽいファッションのウチ。
カップルに見えんのかな…。
診察の結果は陽性。
二ヶ月なんだって。
「どうしよう…」
「うん…」
ごっちん、めっちゃ悩んでる…。
そりゃ当たり前か…。
「ねえ、よっすぃ〜」
ごっちんが“よしこ”って言う時は、真剣な時。
「何?」
「…産んでいい?」
「へ?」
「ダメ?」
上目使いでそう聞かれて、ダメって言えるわけがない。
「仕事、どうすんの?」
「休業する」
「…いいの?」
「だって、これ逃したら、絶対よっすぃ〜の子、産めないもん」
「後悔…しない?」
「うん」
「わかった。二人で育てよう」
ごっちんがそこまで決心してるなら、
ウチも潔くパパになってやろうじゃないの。
でも、ウチらは所詮10代で。
子供を産むって決めたものの、事務所やメンバー、
家族になんて言っていいのかすらもわからなかった。
事実を一からはなしても信じてもらえそうにないし、
でも、ごっちんのおなかの中にウチの子供がいるのは事実だし…。
あたしとごっちんは悩みぬいた挙げ句、
一番最初にメンバーに話す道を選んだ。
翌日の、ハロモニの楽屋でそれは行われる。
その日、ウチは一番に楽屋入りして、ごっちんも娘。の楽屋によんだ。
そして、わざとらしくマタニティ雑誌なぞめくる。
「よっすぃ〜、ごっちん、何読んでんの?」
矢口さんが声をかけてくる。
「たまごクラブ」
「へ?」
矢口さんが本を覗き込む。
「…誰か赤ちゃんでもできたの?」
「あー、私」
ごっちんが手をあげた。
「……産むの?」
「うん」
矢口さん、これまでに見たこともないような真剣な顔してるよ。
「で、パパは?」
「ウチっす」
今度はウチが手をあげる。
「はい??」
そりゃ、そういう反応だよね、普通。
「ねえ、さっきから産むとか産まないとか、いったいなに?」
かおりんが話しに加わってきた。
「だって、ごっちんが赤ちゃんできて、
それでパパがよっすぃ〜だって言うんだよ?」
矢口さんが楽屋中に聞こえるような声で言う。
ハハ…みんな、一瞬にして固まってるよ。
「って、よっすぃ〜、やっちゃったの?」
安倍さん…そんな露骨な…
「やっちゃったよ」
ごっちんもまじめに答えてるし。
「いてえってよぅ」
どすんって、辻加護がソレをたしかめに突進してくる。
「ついてへんやん」
「やった時はついてたの」
あ…ウチまでそういうこと口にしちゃったよ…。
「とにかく! 私、産むんだ。
それをみんなに言いたくてさ」
ごっちんがみんなのがやがやを遮って言った。
それからごっちんはこれからの仕事のこととか、
みんなに語った。
収録が終わったあとは、ウチとごっちんはかおりんに呼ばれ、
かおりんの家で話もした。
「よっすぃ〜、ごっつあん、みんなが着いてるから。
安心して?」
かおりんが優しい笑顔でそう言ってくれた。
ごっちんは泣いていた。
ウチは泣かなかった。
だってパパになるんだもん。
ウチが支えていくんだ。
ごっちんと…そして自分のかわいい赤ん坊を。
つづく
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