《5》
SIDE HITOMI
ごっちんがとってきてくれた仕事、嬉しかった。
事務所主導じゃなく、ごっちん主導ってとこが嬉しかった。
それからのあたしたちは、二人で歌う曲を決めたり、
和田さんや、彩さん夫妻が打合せに来てくれたりと
毎日が充実していた。
事務所も条件付ながらライブを行うことを了承してくれた。
条件も
『後藤真希、吉澤ひとみの名前を出しての集客をしないこと』
って言うもので、元々シークレットライブの予定だったので問題なかった。
メンバーさえ知らないライブ。
ライブハウスが出すスケジュールには
『初見参の女性デュオ H&M』
って載せてもらった。
お客さん・・・来るかな。

退院して通院でのリハビリになると、午後からはライブのリハに当てる事がで来た。
和田さんも真矢さんも彩さんも、そしてごっちんも、
言ってみればお金にならない仕事なのに、本当に一生懸命してくれて
あたしは嬉しくて涙が出てきそうだった。
そしてライブ当日―。
あたしの足はもう日常生活を送るには何の支障もないほどに回復していたけど、
ごっちんは心配だからって、椅子に座ってのライブセットにしてくれていた。
リハが始まる。
真矢さんがプロデユースしているバンドがバッキングをしてくれて
そばで聞こえるごっちんの優しい歌声。
ああ、歌っていいなってあたしは実感していた。
今日歌う曲は既存の曲と何曲かは、ごっちんが持ってきてくれた新曲。
どれもこれもいい曲ばっかりで
正直、シークレットライブで歌うのはもったいないんじゃないかって思った。

楽屋でごっちんとくつろいでいると―。

「ごっちん、私。 入っていい?」
「あ、あやっぺ。どうぞー」

ドアが開き、彩さんが入ってくる。

「連れてきてくれたの?」
「うん」

・・ん?
彩さん、誰連れてきたの?

「おっす〜」
「よっすぃ〜、水臭いぞ〜」

入ってきたのは他のメンバーたちだった。
それに中澤さんもいる。
ごっちん、みんなに言ったの?

「やっぱ、曲もらったのに、聞いてもらえないのは悪いじゃん?」
「え?」
「新曲ね、メンバーと、裕ちゃんと、あやっぺとに書いてもらったんだよ」
「そうなの?」

そうだよってごっちんはニヤリ。
バカやろお〜、泣けてきたじゃんか。

「うわ〜、よっすぃ〜が泣いてるで」
「うっせー」

だってうれしいじゃん。

「今日、ちゃんと見ていくからね」
「ありがとう」
「しっかり歌うんやで」

そう言って中澤さんがあたしの頭をぱふって撫でる。

頑張りますよ。
吉澤、何ヶ月ぶりかの歌っすから。

SIDE MAKI
私たちのライブが始まる。
はっきり言って、ここんとこの私は喉を酷使しすぎなんだけど、
それすらも忘れるほどに、あたしのテンションは上がっていた。
よっすぃ〜と二人で歌える。
それ以上の喜びは私にない。
例えお客さんが一人だったとしても、それは関係なかった。
よっすぃ〜と歌いたい。
よっすい〜にもう一度歌う喜びを思い出して欲しい。
そしていよいよ最初の曲のイントロが始まった。

「よしこ、いこっか」
「おう!」

モーニングの頃にいつもやってた
「いきまっしょい」の代わりに
私たちはぎゅっと強く抱き締めあった。

ステージに出ていくと、客席は満杯だった。
元々500くらいしか入らない、少し大きめのライブハウスなんだけど、
その客席は満員状態だった。
おそらく、どんなユニットが出て来るのかわからないで入ってくれた観客。
私たちは、最初、目深にかぶった帽子とサングラスのままで
一曲を披露する。
思ったより上手くハモれて、背筋がゾクッとなった。
よっすぃ〜のかすれ気味の低音と、私の中音がここまで綺麗に響くとは
正直思ってなかったので、私はそれだけで嬉しかった。
MC。

「今日は私たちみたいな新参者のためにこんなにたくさんの方に集まっていただき
ありがとうございます。
実は、私たちは昔、って言うか今もなんですけど、プロとして歌っています。
でも、この2人で歌うのは初めてで、
どういう風に皆さんに届いているのか心配なんですけど」

そこまで言うと、観客から拍手が起こる。
私たちは帽子を脱いだ。
一瞬、客席がざわめいたけど、すぐに暖かい拍手になった。
私たちは無事受け入れられたようだ。

そこからの私たちは狂ったように歌った。
もう全てを出し切るかのように歌った。
アンコールの頃には、私の声はよっすぃ〜みたく掠れてたけど
そんなこと関係ないくらい充実してたんだ。


そして今、私とよっすぃ〜はベッドの中。

「お疲れ様」
「お疲れ様」
「よっすぃ〜、最高だったよ」
「うん、ありがと。ごっちんのおかげだ」
「ううん、私は何にもしてないよ?」
「ごっちんのおかげで歌うことの楽しさ思い出せたよ」
「そっか、よかった」
「心配かけてごめんね」
「ん?」
「ウチが無気力な顔してたから企画してくれたんでしょ?」
「んー、どうだろうね」

私は笑顔でよっすぃ〜を見る。

「でも、もう大丈夫。
ウチ、歌いたい。
で、もっと成長して、今度は正々堂々とごっちんとユニットくみたい」
「うん、組もうね」
「無理させてごめんね」
「無理なんかしてないよ?」
「だって声、かすれてるじゃん。本当にごめん」

そう言って、よっすぃ〜は私の喉にキスをくれた。

つづく

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