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中に入っていくと、真希ちゃんは汗びっしょりでがんばっていた。

「ほら! そんなに力入れないの!」
「まだよ、まだいきんじゃだめ!」

助産婦さんの叱咤激励が飛ぶ。
あたしは入り口を入ったところから進めないでいた。

何回目かの陣痛の波が通り過ぎて、
真希ちゃんがあたしを見つけて、手を伸ばす。

「ひとみ…そばに来て」

声も出せずにただこくりとうなずいて近くへ行く。
真希ちゃんはあたしの手をぎゅっと握った。
そして、また陣痛の波が来る。
あたしの手を握っている真希ちゃんの手にも力が入る。
それはこの華奢な身体のどこから出るんだろうってほどの強い力で驚かされる。

「真希! がんばれ、真希!」

知らない間にあたしも声を出していた。

「さあ、いきんで。もうすぐ出てくるわよ」

 

それから何回か真希ちゃんがいきむと
産声が聞こえてきた。


「元気な男の子さんですよ」
「よかった…ありがとうございました」

無意識にそう口に出していた。

「なんか、お友達、パパみたいだわねえ」

助産婦さんが笑いながらそう言う。
真希ちゃんも笑っている。
あたしは、涙が出て仕方なかった。
でも恥ずかしいから、ごしごしと袖でこすって。

「ひとみちゃん、目、はれちゃうよ?」
「うん…」
「ついててくれて、ありがと」

そう言った真希ちゃんの笑顔は、本当に聖母のようだった。


しばらくして、産湯に浸かってきた赤ん坊が、真希ちゃんの横に置かれる。
透き通るように白い肌、はっきりした目鼻立ちの赤ん坊だった。
人目でそれは、この子のパパが日本人じゃないことを悟るに十分だった。
そしてまた、皮肉なことに
この子がハーフだってことが、この子をあたしに似せる要因となっていた。

「なんか、このベビーちゃん、お友達にそっくりだわよねえ」
「あたしの兄貴がパパなんですよ」

とっさにごまかして。
実際はあたしに兄貴なんかいないわけなんだけどね。


二時間はこの分娩室で経過を見ないといけないらしく
ベビーは新生児室に、助産婦さんも外に出て行って
二人になった。

「なんか、パパになった気分」
「アハハ、似てるから?」
「うん、すごい似てた」
「ひょうたんから駒ってやつだよねえ」
「…パパ、外人さんなの?」
「うん…。あたしの前の学校さ、横田の近くだったのね。
だから、ナンパして欲しいときはみんな基地の近くに行くの。
私もさ、…誰でも良かったからそうしたんだ」
「そうだったんだ…」
「名前も住んでるとこも知らないんだよ? 笑っちゃうでしょ」

そう言って自虐気味に笑う真希ちゃんの髪をあたしはそっと撫でた。
その手が左手だったから、
真希ちゃんがあっと驚いた顔になった。

「手…ごめん」
「ううん、大丈夫だってこれくらい」
「でも…」
「大丈夫、ちゃんと治してリハビリとかしたらまた元通りになるから」
「…バレーは?」

どうしよう…
ドクターからはバレーなんてとんでもないって言われたんだよね…

「うん、大丈夫。骨がくっついたら出来るようになるって」

とっさにそう答えてた。
出来る保証なんてどこにも無いのに…。

 

つづく

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