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噂が学校中を駆け巡ったころ、
校内で一斉にホームルームが開かれた。
議題はもちろん後藤さんのこと。
うちの理事長が自らLANを利用して生徒たちに語りかけた。
ウラに大人の事情が交錯してることはなんとなくわかった。
後藤さんに子供を作れと命じた女は
理事長の姪っ子だったらしい。
そして、理事長は後藤さんを生きた教材にしろって言った。
生命の大切さと
仲間とのかかわり方と
そう言うことのすべてを学び取れと締めくくった。

「ひでえな」
「なんで?」
「後藤さん、いい晒し者じゃん」
「いいの、それ納得済みでここに来たんだもん」
「そうなの?」
「私みたいな落伍者が二度と出ないように
変な女にだまされる子が出ないようになれば私もうれしい」

同じ年だとは思えなかった。
タメなのに後藤さんはあたしよりずっと大人だった。
あたしが後藤さんの立場だったら
一人で産む決心なんて出来ただろうか。
そう思うと、後藤さんに尊敬の念すら抱いた。

 

 

後藤さんのおなかは日に日に大きくなる。
そのうち既製の制服が入らなくなって
梨華ちゃんが改造版マタニティー制服を作った。
すげえって褒めたら
保田先生に教えてもらって一緒に作ったのって
嬉しそうに話してくれた。
なんかそう言うのっていいなって
あたしも自分の好きな人のことそう言う風に話せたらいいなって
思ったりなんかした。


「いいなあ」
「へ? なにが?」

あたし、思わず口に出して言っちゃってたらしい。

「いや、梨華ちゃんがうらやましいなって思って」
「羨ましい?」
「うん。保田先生のこと話す時の梨華ちゃん
すっごい幸せそうだからさ。
あたしもそうやって話せる相手が欲しいなって思っただけ」
「…真希ちゃんじゃないの?」
「…真希ちゃんって呼んでるの?」
「みんな呼んでるよ?
…まさか呼んでないとか?」
「…後藤さんって呼んでる。
ねえ、まさかとは思うけど後藤さんは梨華ちゃんのこと…」
「梨華ちゃんって呼ぶよ?」
「…あたし、吉澤さんって呼ばれてるや…」

軽く落ち込んだ。
あたしは後藤さんの特別だって思ってたんだけど…
これって自惚れだったのかな…。

「でもさ、ほら、きっかけとかあったらすぐだって」

梨華ちゃんがあわててフォローしてくれるけど
あたしの気持ちは沈んだままだ。


「そんなに好きなんだ?」
「え?」
「真希ちゃんのこと」
「わかんない」
「好き好き光線、出てるよ?」
「うそ…」
「素直になんなきゃすすんで行かないよ?」

保田先生に想いが届くまで
泣いてばっかでネガティブ路線まっしぐらだった梨華ちゃんに
そんなことを言われたら苦笑するしかない。
ってか、そこまで言われちゃあたしだって!

 

学校からの帰り道、いつものように手をつないで歩く。
別に付き合ってるわけじゃないのに…。
ただ。おなかが大きいと危ないからって
いつからか自然とつないで歩くようになったんだ。

「ねえ」
「なあに?」
「予定日、いつだったっけ」
「クリスマスイブ」
「そっか」
「あ〜あ、クリスマス、遊べないな」
「ケーキもって行くよ」
「病院に?」
「うん」
「あはっ、ありがと。待ってる」

そう言って柔らかい笑顔を浮かべる後藤さん。
この笑顔があたしのものになったらどんなにいいだろうって
何回思ったかわからない。
あたしだけのために笑ってほしい。
なんて、贅沢なのかな。

「産んだらどうするの?」
「とりあえず高校は出る」
「うん」
「でも大学には行かない。働いて子供養わなきゃ」
「大変だよ?」
「わかってる」
「二人で稼いだら大変さも二分の一になると思わない?」
「…そりゃそうだけど、誰が?」
「あたし」
「はい?」
「あたしも働く」
「…私のために?」
「うん」
「ダメだよ」

即答で否定された。
ショックだ。

「…なんで?」
「吉澤さんは大学行くんでしょう?」
「どっちでもいいよ」
「バレー推薦で外部でもいけるって話し聞いたよ?」
「体育大学の話? あんなのどうでもいいよ。
どうせ先生になるわけでもないし」
「でももったいないじゃない」
「バレーは実業団でも出来る」
「実業団?」
「うん。仕事しながらバレーは出来るんだ」
「何でそこまで…」
「好きだから。じゃだめ?」
「…好き? 私を?」
「うん。大好き。
後藤さん……真希ちゃんが笑うたびに
あたしだけのために笑って欲しいって思う。
真希ちゃんが涙を流すたびに、あたしの胸でなけばいいって思う」
「吉澤さん…」
「まだ、誰も信じられない?」
「……」
「ゆっくりでいい。あたしを好きになって」

口に出してみたら、簡単なことだった。
こんなことならもっと早く想い伝えるんだったよ。

「信じて…みようかな」
「真希ちゃん…」
「吉澤さん…」
「名前で呼んで?」
「うん…ひとみ…」

はじめて、キスした。
臨月近いおなかのせいで、ちょっと抱き合うのには遠かったけど
それでもあたしには甘い甘いキスだった。


手をつないで、ゆっくり歩いてうちに帰る。
隣を見たら、真希ちゃんが幸せそうに笑ってる。
すっごいあたしも幸せだった。


「あ…」

まさにあと5mほどで家だって時、
真希ちゃんが立ち止まった。

 

つづく

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