《2》

目の前に差し出した左手をじっと見詰めてる吉澤さん。

「ちょっと・・・歪?」
「骨砕けたからね」
「試合で?」
「違う、練習で。
同じクラブの子が使ってたダンベルが手の上におちたんだ」
「・・・それでボクシングやめようって?」
「ってか、いいきっかけになってよかったんだよ。
女がボクシングを一生の仕事になんて出来ないし。
前にも言ったけどさ、あんたもかわいい顔してるのにもったいなすぎるよ」
「後藤さんはボクシング嫌い?」
「嫌い」
「じゃあなんでトレーナーやってるの?」
「親孝行かな。
親父は私がボクシングに関わってると嬉しそうな顔するからね。
まあそのオヤジも今やどこにいるかわかんないんだけど」
「後藤さん」
「ん?」
「ウチ、クラブは入りません。
集中してジムに通います」
「そっか」

それからも、吉澤さんはこの日一日中、私にべったりとくっついていた。
私は学校では無口だし、無愛想だしで友達がいない。
って言うか、どっちかというと怖がられているっぽかった。
そんな私にくっついて歩いているというのがよほど珍しいのか
休み時間には他の学年が教室に見学に来るほどだった。

「何でウチのこと見に来るんだろう」
「私と一緒にいるからだよ」
「え?」
「私、友達いないんだ」
「そうなの?」
「怖がられてる。なぜか」
「へー、じゃあ私が友達一号ってやつ?」
「はい?」
「やったー。こんなかわいい友達出来て幸せ」
「かわいいって誰が?」
「後藤さん」
「吉澤さんのほうがかわいいでしょ?」
「そう? ウチ的には後藤さんもろタイプだもん」
「タイプって・・」

どうもこの子といると、ウチはペースを崩される。
天真爛漫って言うか、存在することでガラっとその場の空気を変えてしまう。
今もほら、私のこと、これ以上ないって言う笑顔で見つめてて
私もつられて笑顔になってしまうんだ。

「ほら、やっぱ笑った顔かわいい。
何でこんなかわいい人怖がるんだろうな〜」

目の前でかわいいかわいいって連発されて、
私の顔、きっと真っ赤だよ・・・。

「ひーちゃん行くよ」
「ほえ?」
「だから、ひーちゃん、ジム行くよ?」
「ひーちゃんって・・ウチ?」
「そ」

起死回生を狙って「ひーちゃん」って呼んでみるも、
そのひーちゃんは嬉しそうな笑顔。

「うん! 行こう、真希ちゃん!」

・・・やっぱ、勝てないわ・・・・


そんなひーちゃんも、ジムに来ると人が変わる。
トレーニングする時の横顔は、同性の私が惚れ惚れするほどにかっこいい。
私が出す、課題を軽くクリアしていく。
一週間もたつと、かなり身体も引き締まってきて、
体重の落ち方も落ち着いてきた。

「この辺がベスト体重かな・・」

そろそろどのランクに挑戦するかを決めるときだ。
体重や、身長やリーチの長さ、
全てを鑑みて、どのランクででるかを決める。

「ねえ、ひーちゃん、今の体重のランクより一個下でやってみる?」
「一個下?」
「うん。そうだと、ひーちゃんのリーチの長さが生かせてかなり有利だと思うんだけど」
「あと何キロ?」
「3キロ」
「わかった」

三キロの減量。
無論、いつもでなくて試合前の軽量の時だけでいいんだけれど、
無駄な脂肪がない身体から3キロ落とすのはかなりきつい。
その説明も一応、ひーちゃんにする。

「大丈夫でしょ。真希ちゃん一緒にいるし」

ひーちゃんは、女の子には過酷だと思うような練習量を
「真希ちゃんと一緒ならできる」
そう言って次々とクリアしていく。
昔、お父さんが
『自分が育てたボクサーは、無条件にかわいい』
って言ってたのを思い出した。
今の私もそうだ。
全幅の信頼をおいてくれるひーちゃんが、かわいくて仕方ない。
絶対に一人前のボクサーにしてやろうって思う。


そして練習は次の段階に入った。

〜つづく〜

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析