《2》

「吉澤、大丈夫?」

圭ちゃんが声をかけてきた。
ウチ、そんなに機嫌の悪い顔してんのかな。
でもね、市井さんだけには負けたくないんだ。

「あとちょっとしかないし、がんばってや」

つんくさんが言う。

「あと二週間で後藤とあわすし、
それまでに形にしてほしいんや。
アレンジは君らに任せる」

まじっすか。
アレンジなんてできるのかな…。
こりゃ、ライバル心出してる場合じゃないよ。
ウチの場合、ドラミングはまめがつぶれるほど叩き込んだから心配ないんだけど、
問題は叩きながらのコーラスだ。
つんくさんが「せっかく生バンドでやるんだから
コーラスも生でやろうや。お前ら歌手やもんな」
って一言で決まっちゃった。
それでなくても両手両足でばらばらなことやってていっぱいいっぱいなのに
そこにコーラスが加わるなんて…。
しかもウチのコーラスパートは結構難しかった。

「何で、こういうのあやっぺさんじゃないんですかー」

圭ちゃんの中音、市井さんが高音はがちで。
ウチと彩さんは上ハモ下ハモともにできるからって
一曲中で歌う高さが変わる。
うまく歌えなくて悩んでたら、あやっぺさんが手取り足取り教えてくれた。
もうほんと、あやっぺさん夫婦にはお世話になりっぱなしだよ…。

スタジオの練習だけじゃ足りず、
ウチらはあやっぺさん家のスタジオに集まって
夜を徹して練習することもあった。

 

そして、いよいよごっちんと合わせるって前の日も、
ウチらはあやっぺさん家のスタジオにいた。


この日、ウチは毎回のことながら一番最後にスタジオに入った。
モーニングは忙しいんだから仕方ないよって
みんな理解はしてくれてるんだけど。
でも、スタジオに入ってもこの日はなんかうまく叩けなくていらいらしてた。
昨日までできていたはすのドラミングができない。
コーラスもぶれる。
ウチは曲の途中で自分で止めた。

「吉澤、どうした?」

圭ちゃんがいった。

「おいおい、明日、後藤とあわすんだぞ?」
「わかってます」

にらみ合うウチと市井さん。
ウチは別に市井さんが嫌いなわけじゃない。
でも、明日、市井さんとごっちんとみんなで顔をあわせると思うと
心がざわざわした。

「そりゃあ、モーニングは忙しくて、練習する暇もないだろうけどさ」
「してますよ! ごっちんに恥ずかしい演奏聞かせたくないっすから」
「じゃあ何で前日にそんななんだよ」

このままじゃ喧嘩になる。

「よっすぃ〜、休憩しようか」

あやっぺさんが声をかけてくれた。
市井さんには圭ちゃんが声をかけている。
さすがは歴代二大気配りの人だ。


「よっすぃ〜さ、何いらついてんの?」

キッチンでお茶を入れながら、あやっぺさんが言う。

「わかんないっす」
「紗耶香のこと、嫌い?」
「いえ…そうじゃないっすけど…。
でもウチ、市井さんに嫌われてるっぽいし」
「そんなことないっしょ」
「だってウチと話すときって、市井さん、いつもケンカ腰だし」

なんか、かっこわり…。
グズグズ愚痴ばっか言ってるよ…。

「しょうがないねえ」

あやっぺさんはにっこり笑うと、
うちの頭をパフってなでてくれた。
そしてあやっぺさんは自分の携帯を取り出し、ボタンを押した。

「はい、よっすぃ〜」
「へ?」
「いいから、出な?」
「…もしもし?」
『もしもし? あやっぺ?』

…ごっちんだ…。

「いや…」
『…よしこ?』
「うん…」
『あやっぺと一緒にいるの?』
「うん、仕事で」

バンドのことはまだ内緒だから言えない。

『そっか。なんか元気ないねえ』

ごっちんと話していると、自分の心が落ち着いてきた。
電話を切るころには迷いも吹っ切れていた。
単純だね、ウチ。

「ありがとうございました」

うちは携帯をあやっぺさんに返す。

「元気でた?」
「はい!」
「じゃあ、もうちょっとがんばろっか」

明日、市井さんに引けをとらないように、
ウチはがんばるしかないんだ。
待っててね、ごっちん。


つづく

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