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「吉澤、ちょっとええか」

あるレコーディングの一日、ウチはつんくさんに呼ばれた。

「あのさ、正直に言ってもらいたいんやけど」
「はい…」

何、怒られるんだろう…。
めっちゃこわいんっすけど。

「なあ吉澤、お前は何が今一番したいんや?」
「へ?」
「ええから言うてみ?」
「なんか、楽器覚えたいです」
「楽器?」
「ええ。ウチ、何も取り柄ないから。
楽器覚えて、ステージで披露できるくらいになりたいっす」
「そっか」
「あと…」
「あと?」
「楽器覚えれたら、ごっちんと仕事したいな、なんて…」
「はぁ?」

…さすがにちっこい夢だったかな…。
でもさ、ごっちんのバッキングやりたいんだよぅ。

「そんなんでええんか?」
「…はい」
「やるか?」
「いいんですか?」
「いっぱい勉強せなあかんで?」
「はい、わかってます」
「よし、次の後藤の新曲は バックバンドつけてノリノリの曲いでいこ」

なんか、つんくさん、大乗り気だ。
ウチ、つんくさんの遊び心に火をつけちゃったのかな…。

早速につんくさんは他のバンドメンバーの人選に当たっている。
携帯の電話帳をスクロールしながら、
時折、電話をかけて…。
一時間後、ノリノリのつんくさんが再びウチの前に来た。

「吉澤、決まったで」
「もうですか?」
「とりあえず、今日から空いてる時間はドラム練習して」
「ウチ、ドラムっすか?」
「キーボードもギターもベースも、やれるやつおるからな。
あとドラムがおらん。それに、吉澤はなんとなくドラムのイメージやん?」

言われてみればそうなんだけどね。

そのあと、ウチはつんくさんに言われて自分の師匠となる人に電話をかけた。

「もしもし、つんくさんに紹介してもらった
モーニング娘。の吉澤ですけど」
『ああ、はいはい、聞いてますよ』
「今日、早速お伺いしていいですか?」
『ええ、早く始めるにこしたことはないし』
「えっと、どこに行けば」
『事務所で待っててもらえます?』
「事務所ってうちのですか?」
『そうそう。うちの奥さんに迎えに行ってもらいますから』
「って、わかりますかねえ」
『ああ、ゴメン。まだ名乗ってなかったよね』

そういえば、ウチの師匠って誰なんだ?
つんくさんは山田さんって言ってたよな?

『俺、真矢です。元LUNA SEAの』
「まじっすか!!」

なんか一気に緊張してきた。
ドラムは超初心者のウチでも、
真矢さんがすっごいドラマーだということは知ってる。
ってことはだよ? 迎えに来る奥さんって…。

『ウチの奥さん、顔わかるでしょう』
「はい! もちろん!」

あやっぺさんなら、見間違うはずない。

 

それからのウチは、毎日あやっぺさんの家に通った。
まめがつぶれるくらいに練習した。
二ヶ月たった今、スティックをまわしながら叩けるところまでこぎつけた。


「よし、これであとは他のバンドメンバーとあわせながら練習したらいい」
「ありがとうございました」
「明日、顔合わせなんだろ?」
「はい、楽しみです」
「他のメンバーに負けんなよ」
「はい!」
「ちょっと、真ちゃん、そのほかのメンバーってのに、私も入ってるんですけど」
「そういやそうだな、ゴメンゴメン」
「へ?」
「あれ? 言ってなかったっけ?
ベース、あたしだよ?」

まじっすか!!
人が悪いよ〜、あやっぺさん。

 


そして、ウチは翌日のバンドメンバー顔合わせに臨んだ。
ウチは、あやっぺさんと一緒にスタジオに入った。
そこには圭ちゃんがいた。

「圭ちゃんがキーボード?」
「そうよ。あやっぺがベースで…吉澤は?」
「ウチはドラム」
「そっか〜、じゃギターは誰だろ」

「おはようございま〜す」

そういって入ってきたギタリストは…市井さんだった。
この人選に圭ちゃんが苦笑する。

「すごい人選だわねえ」

確かにある意味奇蹟な…
めっちゃ濃いバンド編成だと思う。

どうなるんだろうね、ごっちんSPバンド。

 

つづく

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