ケイコは空を見上げていた。
白い雲がいくつかどこからともなく現れ、地平線の向こうに消えてゆく。柔らかい風が頬を撫で、髪を揺らした。
悪くない。
視線を落とすと、そこには小さな村があった。三階のベランダからほぼ全ての家屋が見下ろせる程度の町並みである。デリッツ王国領内にはあるが、本国との交流があまりない、いわゆる田舎のこの村は長閑で、都会とはまた別の魅力があるように思える。
そこは、ヴォストークが一時滞在している宿屋の一室であり、宿主が密かにヴォストークを応援してくれている人物で、宿賃は通常の半額にしてもらっているのだそうだ。そうでなければ、こんな部屋を借りられるはずがない。
宿の中で最も立派な部屋を使わせてもらっているケイコにはまだ不満があったが、これ以上のものがないのだから仕方がない。
「・・・気分はどうだ?」
「たった今最悪になったわ」
背後からの声にケイコは振り向きもせずに言ってやった。
僅かな時間差をおいて、視界の片隅にユリシーズの姿が現れる。初めて会ってからもう三日が経つが、今ではこうしてケイコに会おうとするのはこの青年とドハルくらいのものだ。
ナディアも話し掛けてはくるが、自らケイコに会おうと足を運ぶことはない。
それを考えるとこのユリシーズは本当に変わり者だ。ヴォストークの指導者であり、一番忙しい身であるはずなのに。
「・・・すまないな。気分を害してしまって」
ユリシーズはふざけるでもなく、生真面目な顔をして言った。毎度のことだ。
こっちが何気なく言った冗談にも、この男は真剣に答えてくれる。
どこまでお人好しなのだろうか。
「あたしなんかに構ってる暇ないんじゃないの?」
「今日は皆休養を取ることにした」
「・・・そう。呑気なものね」
「休みは必要だ」
女性であれば一目見ただけで心を奪われる笑顔をユリシーズは浮かべた。
正直言って、本当に格好いいと思う。
綺麗な顔にたくましい身体、その上優しく頭も良いと何もかもが揃ったユリシーズを見て、心が揺るがない女性などいないだろう。
だが、ケイコには逆にそれが気に入らなかった。基本的に完璧という存在は有り得ないと考えている彼女には、どうもユリシーズに裏があるように思えてならないのだ。
手すりに体重を預けているケイコの隣で、長身の青年は実に堂々とした動作で腰に手をあて、町並みを見下ろした。ここは確かに村と呼ばれているが、町というカテゴリーとの判断は難しいところだ。
「・・・ケイコ」
「気安く名前を呼ばないで」
「・・・すまない」
横目でちらっと見てみると、ユリシーズの表情が曇っているのがわかった。
「・・・何よ?」
溜め息を漏らしながらケイコが聞いてやった。これ以上彼に突っかかるのがバカらしくなったのだ。
長い髪を耳に引っ掛けて、何気なく自分が着ている服を見る。安物だが、この町に来て買ってもらったものだ。
白いワンピースのドレス。何の変哲も、装飾もない。
「散歩でもしないか?」
「何よ、それ。誘ってるわけ?」
「ああ。天気もいいことだしな」
「イ〜ヤ。何されるかわかったもんじゃないわ」
「・・・そうだな。まだ会ったばかりだ。そう簡単に信じてもらえるはずがないか」
「わかってるなら、話し掛けないでよ。あたしでも、一応考え事くらいするんだから」
「わかった。邪魔をしてすまなかった」
ユリシーズは軽く頭を下げた後、何も言わずに去っていった。 防具はつけていなかったが、背が高く筋肉の塊のような身体をしているから、歩く度に床が悲鳴をあげる。ケイコの倍近くの体重があるに違いなかった。
彼女も割りと長身の方だが、華奢で細い。標準に僅かに及ばない程度だろうか。
後方でドアが閉じる音が聞こえてから、ケイコは深呼吸をし、手すりから離れてその場に座り込んだ。だらしなく両足を伸ばして空を見上げる。また、雲が流れていた。
「あの娘の様子は?」
一階に下りてきたユリシーズに、食料の買出しの準備を整え終えたナディアは声をかけた。背中に大きな麻の袋を背負っている。
今共に行動している同志たちの人数は30人程度なので、生活用品を揃えるのも緩くはない。唯一の救いは、ユリシーズが率いている支団は女性が多いので、食費が多少押さえられることだ。本来なら女子供は全体の一割か多くて二割なのだが、その分を埋めてもユリシーズがいるというだけでお釣りがくる。
戦闘能力はもとより彼の頭脳が最大の武器だ。
「変わらない。まだ警戒されているようだ」
青年は僅かに悲しそうに言った。階段から下りきると、溜め息さえ漏らしてみせる。
この男がそんな動作をするのは珍しいことだ。
「難しい娘ね」
「いや・・・誰だって、見ず知らずの人間に周りを囲まれれば神経質になる。私もそうだ」
彼の説得力に欠けている。
「それはそうだけど・・・」
一瞬その後に続けそうになった言葉を、ナディアは噛み殺した。言っても無駄だとわかっているからだ。
沈黙になりかけたところに、ちょうどよくラルゴがやってきた。偶然ではない。買出しの荷物持ちにナディアが呼び出していたのだ。
「おう」
ユリシーズを見て、あからさまに嫌そうな顔をしてラルゴは舌打ちをした。二人の元に辿り着くなり、凄んだ声で言いながら、ナディアを見下ろす。
ラルゴはユリシーズより長身で、厳つい身体つきをしている。
「さっさとしてくれよ。朝から飲もうと思ってたのに、邪魔しやがって」
「ごめんなさい。できるだけ早く済ませるようにするわ」
「せいぜいそうしてくれや」
ラルゴはそう言って玄関から外へ出て行った。やはり不機嫌そうだ。
ヴォストークは革命団という性質上、軍で言えば常に作戦行動中と同じだから、当然のごとく飲酒は厳禁である。
盗賊上がりの彼は以前は随分と飲んでいたようだから、それを禁じられるのは辛いだろう。
それを考えるとナディアは本当にラルゴに悪いことをしたと思う。
だが、仕方がないのだ。いつもはユリシーズが荷物持ちの役割を果たすのだが、今日は用事があるということでラルゴに代わりを頼むしかなかったのである。
肝心の用事が何なのかは、ナディアは知らない。あえて聞こうともしなかった。
「それじゃ、私は行くわね」
「ああ」
ナディアは軽く手を振り、ラルゴが待っているだろう玄関へと向かった。すぐに後ろ姿が見えなくなる。
そうして見届けてから、ユリシーズは裏口に移動した。
宿の裏には雑木林が広がっているのだが、もちろんそちらに用はない。
銀色の青年は近くにあった小屋の前で足を止め、宿主に任された作業を始めるべく準備を開始した。乱雑に麻のロープでつながれた木々を外に出し、道具箱から手斧を取り出してから背中の剣を小屋に立てかける。
薪割りであった。
彼は自分がその仕事を引き受けることで、宿代の半分をまけてもらうことにしていたのだ。宿賃が半分で済んだのはサービスでも何でもないのである。
旅行者も滅多に来ないこの村の宿屋が珍しく数十人という客に出会ったのに、いくらそれが支持する団体とは言え値引きすることなどできるはずがない。更に言えば、そんなことができるだけの余裕がないのだ。
デリッツ王国は軍力以外は人口から経済から全てが中央に集中しているから、本国から離れれば離れるほど生活苦に悩む人々が多くなる。この村も本国からかなり離れている辺境の土地だ。もっとも、国境にはまだ遠い。
ヴォストークはあくまでも革命団であるからデリッツ王国から離れるのは得策ではないし、今のところはこの国が周辺の中では最強なので、その領土内にいる方が安全だ。ただし、その考えもゼイアスが本格的にヴォストークの討伐に乗り出したことがわかった今では、改めて検討し直さなければならない。
ますます立場が苦しくなってきた。
昨夜、他の革命組織の会合に合意した判断は正しかった。 ユリシーズが持っている情報ではヴォストークの次に大きな勢力を持つ革命団から、首脳会談の提案があったのだ。
しかし、名前だけでその勢力は実態がよくわかっていない。元々が顔と名が売れすぎていたユリシーズとは違い、しっかりとした情報管理をしているのだろう、指導者の名も複数あってどれが本当かは特定もできない。
だからこそ、これまでこちらか接触するというのは躊躇われたのだ。それを向こうから求めてきてくれたのだから、会わない手はない。
「っ!?」
不意に、背後に人の気配が現れた。ここまで接近を許したのは考え事をしていたせいだ。
そう反省した瞬間には、ユリシーズは後ろを振り返りそこにいた人物の鼻先に手斧を突きつけていた。身体に染み付いた、職業病とも言うべき動作である。
「君は・・・!」
ユリシーズはすぐに彼女を離し、表情を曇らせた。
「すまない。大丈夫か?」
「・・・随分、乱暴なのね」
黒髪の美少女はそう言いながら、目の前の青年に掴まれた手首を擦っていた。
ユリシーズが本気で指に力を入れていたら、この華奢な手首を折ることなど容易いことだ。
「こんなことをしていては、私は一生君に信頼してもらえないな・・・」
「まったくね」
真剣な青年をあざ笑うかのように言って、ケイコはユリシーズの横にまとめられている大量の薪の山を眺めやった。
「なんでこんなことしてるのよ。あなた、リーダーなんでしょ?」
「時間が余っていたんだ」
「だからみんなのために働くんだ?相変わらず、馬鹿ね」
「そうだな。だが、結構鍛錬になる」
言いながら、ユリシーズは軽々と薪を割って見せた。予め切れ目をいているかのようにスムーズに木が割れるのだ。
「やってみるか?」
彼にしてみれば苦肉の策だった。少しでもケイコとの距離を縮めたい一心なのだ。
信頼してもらえないということは、時として致命傷になることがある。ヴォストークがこれまで幾度も修羅場を乗り越えてこれたのも、ユリシーズと他のメンバーたちの絶対的な信頼関係が大きい。
「・・・少しだけね」
ケイコは端的に述べて差し出された手斧を受け取った。
どうも慣れない。
自分が何者なのかはまるでわからないが、こんなことをするのは生まれて初めてなような気がする。身体が漠然とそれを感じていた。
彼女はまだ割っていない方の薪の山から一つ木を取って、地面に置く。本当なら木を支える道具を使うのだが、力のある者ならその必要はない。
ユリシーズは黙って見守っていた。
「普通に叩けばいいんでしょ?」
「特別なコツはないと思うが」
「それじゃぁ・・・」
ケイコは思い切り斧を振り下ろした。
この数日、無愛想にずっと部屋に篭りっきりなのでろくに身体を動かしていない。それではさすがに身体も鈍るというものだ。溜まっていたストレスもあって、少し物を叩き壊したい願望がケイコにはあった。
だが、薪はそれに応えてくれなかった。
確かに刃は刺さったが、とても割れているとは言えない。
ユリシーズは片手で割っていたのに。
「何よ、これ・・・」
「力が足りないんだ。それに、手首の扱いが十分にできていない」
「あっそ。それじゃ、返すわ」
斧をユリシーズに押し付けて、ケイコは歩みだした。
「どこへ行くんだ?」
「別に。退屈だから、ここで働き蟻を観察することにするわ」
「・・・そうか」
安心したような笑みを漏らしてから、ユリシーズは薪割りを再開した。
ケイコは壁に背中を預け、ひたすら薪を割り続ける青年の後ろ姿を凝視した。
美しい銀色の髪に、広い肩幅。それに加え、軽々と薪を割ってゆくたくましい身体。これだけ揃っていれば、女遊びでも何でも、好きなことなどいくらでもできるだろう。
どうして、この男はそれをしないのだろうか。
そして何故、 自分のような女に軽口を叩かれて黙っているのだろうか。
わからない。
努力して得た優秀な能力がありながら、それを自分のために使わない人生で満足しているのか。
少なくとも、自分には耐えられない。
絶対にこの男には裏があるはずだ。
ただ単純な好奇心もあるが、それ以上にケイコは偽善者の正体を暴きたい衝動に駆られていた。
「・・・ねえ、それが終わったらどうするの?」
「剣の素振りをして・・・夜に人に会う」
「恋人?」
「いや。他の革命団の指導者だ。私たちに協力してくれる」
「ふ〜ん・・・」
にわかに信じがたかった。
「あんたって、いつもそうなの?」
「どういう意味だ?」
「いっつもいつも、そうやって忙しくしてるわけ?気休める暇って、ないの?」
ケイコが見ている中では、ユリシーズにそんな時間はない。
初めて会った時から、彼は常に動いていた。
時には赤の他人を助け、ヴォストークを指揮し、指示を出し、今後の方針を検討する。
皆に隠れて一人働き、肉体を鍛えるべくトレーニングをする。
おまけに、ケイコはまだ彼が眠っている姿を見たことがない。夜遅くまで見張りをし、朝早く起きては素振りをしているのだ。
どこに息抜きをする暇があるのだろうか。
「これが私の気休めだよ」
「何よ、それ」
ケイコは鼻で笑った。だが不思議とその場を立ち去る気にはなれなかった。
それどころか、気が付けばケイコはユリシーズとの会話に熱中していた。
現在の世界情勢、ヴォストークが置かれている状況などの小難しい話から、生活の工夫などの世間話まで、様々なことを話し、教えられた。
ケイコが気が付いていないが、それは純粋に知りたいと思う幼児特有の知識欲にも似た欲求だった。 理由はわからないが自分が名前以外何もわからないという事実を知っているから、少しでも何かを知りたい、記憶を作りたいと願ったのだ。
頭の中に何もなければ考え事も満足にできない。逆に不安になる一方なのだ。
薪割りが終わり、ユリシーズが大剣の素振りを始めてもケイコが口を閉ざすことはなかった。
「マクシミリアン様」
背後から声をかけられても、マックスは返事もせず、振り返ることもなかった。ただ黙って、デリッツ王国の本国の街並みを眺めていた。
本国デルミルバーグは、城を中心に放射状に街が広がっている大都市である。その規模は、元々都市国家であったことを考えれば、自ずと想像されるであろう。
都市は周囲を小高い壁に囲まれ、更に遠方に巨大な防壁で守られており、更に城の周りには城壁を構えている。近年稀に見る凄まじい防御力を誇る要塞だ。
街自体も、全てが石造りに加え現在では最先端の建築技術である鉄を用いた物も少なくはない。
しかしながら、そんなデリッツ王国も呑気に構えていられない状況が、今日である。
北を支配するレザーバーン、西の王者バイドン。
この二大国家に挟まれる形のデリッツ王国は、ある意味では格下のその二国の攻撃を防ぐのに精一杯の状況なのだ。未確認ではあるが、二国が秘密裏に同盟を結び、まず最大のデリッツを潰そうと画策しているという噂もある。
その中での革命組織の登場は、油断をすれば致命傷になりかねない王国の腫瘍だった。
「恐れながら、未だユリシーズ=アルファイスは発見できていません」
「・・・わかっている」
「は?」
バルトロメイは下将軍の不可解な発言に、跪きながらも首を傾げた。
「あの男の考えることはわかる」
「・・・では?」
「出撃の準備だ」
「はっ」
マックスの命令に堂々とした返事をし、バルトロメイはバルコニーから去っていった。
そこは城の中でも、一定以上の階級の者しか立ち入りできない区域である。バルトロメイはその中で最低に位置していていた。
彼が去った後も、マックスはその場を動かなかった。
将軍の位を示すハーフマントが時折風に靡く。戦場ではもちろん違うのだが、城内ではまた別の衣装が彼らにはあるのだ。
「ユリシーズ・・・」
マックスは彼のことをよく知っていた。おそらく、この城の中で自分以上にあの男のことを知っているのは一人しかいない。
因縁の仲だった。
浅ましい感情の渦の中で絡み合った。
思い出したくなくとも、自然と浮かんでくる。
決着をつけねばなるまい。
あの日から、マックスはずっとそれだけを思って生きてきた。国内で五本の指に入る名将のマクシミリアンがあえて革命組織の討伐に出向いているのには、そんな理由がある。
「良い天気ですね」
不意に聞こえた声にマックスは思わず振り返った。
美しい女が、そこにはいた。彼女はそのまま彼の隣で足を止めて、手すりに華奢な手を置いて城下を眺める。
長い金色の髪を結い、淡い化粧をした女は幽遠なほど美しかった。
マックスは彼女のことをよく知っている。
デリッツ王国国王ゼイアス十六世の本妻、つまり王妃だった。
それほどの人物がこんなところに来るのは実に珍しいことであるが、マックスはそれを感じなかった。彼の中では、彼女がここに来ることは十分予想できたことである。
「私はそうは思いませんが」
マックスは空に視線を移してから、王妃の言葉を否定してやった。
「・・・そうですか」
王妃はどことなく悲しげな表情を浮かべる。
彼女の名はジュリアと言った。肩書きは王妃だが、まだ三十歳にも満たない若く美しい女である。今も昔も国内で最も美しい女性として有名だ。
そして、王妃たる気丈さを持ちながら、少女のように繊細な心を持っていることをマックスはよく知っている。
「ユリシーズの元へ・・・?」
「はい」
マックスはすぐにジュリアに答えた。彼女の方は見ないまま、押し殺したような声で、一つ一つ言葉を吐き出してゆく。
「私はあの男と決着をつけなばなりません」
「・・・あなたに過去を清算することはできないわ」
ジュリアの口調が変わったが、マックスにしてみれば驚くことではない。彼女とは、互いが今の立場になる前から交流があった。
「どんなに足掻いても・・・失ったものは、戻らない」
「・・・後悔している」
自分の方を見ようとしない王妃の横顔を見つめ、下将軍は何故だか笑みを浮かべた。ひどく物悲しい苦笑いだ。それは自嘲さえしているように見える。
「だが、オレ自身が選んだ道だ。自分でもあの頃は浅はかだったと思うが・・・気持ちは今でも変わっていない」
「そうよ・・・あなたはあの頃から何も変わってない。ずっと馬鹿なままよ」
「君だってわかっているだろ・・・それが、オレなんだ。裏切り者、卑怯者・・・どう呼ばれようと構わない」
そう言った瞬間、マックスは頬に鋭い痛みを感じていた。
ジュリアの白くしなやかな手が彼の頬を打っていた。彼女は憎悪さえ感じられる目で下将軍を睨んでいる。
だが、マックスにはそれさえ愛らしかった。
「変わってないのはお互い様だよ」
意地悪をするでもなくマックスは笑って、溜め息を漏らしてみせた。
怒りのせいなのだろうか、ジュリアの淡い紅のルージュを塗った唇は微かに震えていた。
マックスは手をそっと伸ばし、彼女の頬に触れる。相変わらず、温かいシルクのような感触だ。
とても艶かしい。
「君は昔から女すぎるんだ。寂しさに耐えられずに、いつも癒されたいと願っている」
「・・・何のことかしら」
「深い意味はないさ。オレが言いたいのは、君も、オレも・・・昔と変わってないってことだ」
少し力を入れるだけで折れそうな顎を押さえ、マックスはそのままジュリアの唇を奪った。
しかし、彼女は拒まずに目を閉じるだけだった。そうしても無駄だとわかっているのだ。
一方的に愛撫するキスを終えると、名残惜しそうに下将軍は手を離していった。
「・・・すまなかったな」
「えっ・・・」
ジュリアが反らしていた目を彼に向けた時、すでにそこに求めていた姿はなかった。マックスは任務を遂行するべく、彼女に背を向けて歩みだしていた。
その足がふと止まった。
ジュリアの偏見ではあるが、その背中はひどく寂しそうだった。このとき、知り合って以来初めてマックスの背中が小さく見えた。
「さようなら、ジュリア」
マックスは肩越しに手を振り、ジュリアの視界から消えていった。
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