「う・・・」
瞼越しに突き刺さる日差しに、リカルドは小さな呻き声を上げた。
幾度かまばたきをした後、ゆっくりと起き上がる。
そこは自分のベッドの上だった。
窓から差し込んでいるのは、朝陽である。
小鳥のさえずりがどこからか聞こえてきた。
摩天楼が象徴的なランカスターでこんな朝が迎えられるのは、この郊外くらいであろう。
「・・・生きてるのか・・・オレは・・・?」
確か自分は撃たれたはず。
いつもなら当たり前の目覚めが、今だけはひどく違和感のあるものだった。
不意にドアが開く音がすると、愛娘が嬉しそうな笑顔を浮かべて歩み寄ってきた。
「おはよう、お父さん」
「おまえ・・・オレはなんで、ここに・・・?」
訝しげなリカルドに、レイチェルは持っていた紙切れを手渡した。
寝惚けているが、文字が読めなくはないので、リカルドはそれをよく見てみる。
「ん・・・な、これは・・・!?」
「ダイスさんが置いていったの。いらないって断ったんだけれど・・・」
「50万ドル・・・」
しかも、その小切手の支払い者は紛れも無くドミナンテであった。
一体、何がどうなっているのか。
ワケがわからないが、ダイスの顔を思い出すと、リカルドはそれもどうでもよくなってきた。
考えるだけ無駄だと悟ったのである。
「本当に不思議な人よね・・・ダイスさんって」
「・・・そうだな」
適当に言いながら、娘の表情に妙な感情が混じっているのを直感したリカルドは、父親の義務を果たすべく、釘を刺した。
「あの男だけは止めておけ」
「えっ、な、何・・・何のこと?」
小さく誤魔化し笑いをするが、娘が父親を欺くのは用意なことではない。
まして、彼女は父親がたった一人で育ててきたのだから。
その思考もほとんどが筒抜けである。
「それじゃあ、私買い出しに行ってくるから・・・」
未だに動揺しているレイチェルは、逃げるようにしてドアの方に歩んで行った。
だが、大きく深呼吸をし、背を向けてからリカルドは彼女を呼びとめた。
「・・・なあ、レイチェル」
「なに?」
父親はダイスに言われた言葉を思い出す。
あいつは、生意気な若造だったが、不思議と嫌いにはなれない男だった。
「・・・愛してるぜ」
生まれて初めて聞いた言葉だった。
父がそんな言葉を知っているとも思わなかった。
胸が熱くなる。
レイチェルは、感情が昂ぶり、目に涙が浮かぶのを自覚しながらも、苦笑をしていた。
父が自分自身の台詞に照れているのが、背を向けられていても目に見えてくる。
リカルドの愛娘は、そんな風に父の顔を想像しながら、生意気なことを言った。
「知ってるよ、そんなこと」
「っ・・・!?」
「・・・私もお父さんのこと、愛してる」
幼い頃はよく言われていた言葉なのに、いつの間にかリカルドには免疫がなくなっていたようだった。
止めどなく溢れてくる感情を抑えることができない。
てめえの意地を通すばかりで、ろくな稼ぎもなく、娘の青春時代を浪費させてしまった挙げ句、脅迫されたとは言え風俗に売りに出すような真似までした大バカ野郎。
レイチェルは、そんな父を愛していると言ってくれた。
「っく・・・」
思わず、嗚咽が漏れた。
「お父さん・・・?」
「うるせえ!さっさと行きやがれ、バカ娘が!」
「・・・はいっ」
レイチェルは微笑んで、その場を去っていった。
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